アンダンテ03
頼まれていたものです、とそれを渡すとビオラはぱっと笑顔になった。
「そうそうこれこれ、いいんじゃな、いいんじゃないの!」
クロワが渡したのはミアレ限定で発売しているとある写真家の写真集だった。ソウタツという有名な写真家の早めに買わないと売り切れごめんのものらしく、母親に本屋でそれを買ってからハクダンシティのジムリーダー、ビオラに渡すように言われたのだ。
クロワはビオラの名前は知っていたが、実際に会うのは初めてだった。ミアレシティから出たことのない彼女にしてみれば当たり前なのだが、それは自分が軽いお使いとはいえ、一人で街を出たのだ、という実感にもなった。
「ところでクロワちゃん、だったわよね!」
「はい」
「よかったら私とポケモンバトルしていかない?」
「えっ……」
ビオラはジムリーダーだ。ジムリーダーなんてすごい人に自分に?
「そんなの勝てる訳……」
「クロワちゃん」
ビオラは少し真剣な顔つきになった。
「勝ち負けだけが全てじゃないし、やってみなくちゃ分からないのよ」
「……でも」
「可能性を自分で決めちゃ駄目」
ビオラは今度はにっこり笑った。
「君とデデンネ達はもう何処にでも行けるんだから。できないこともあるかもしれない。どんなに願っても叶わないことだって……でもやろうとする意志が一番大事なのよ。それでもし、目標を達成できたら、それ以上嬉しいことってないよね!」
「……可能性」
クロワは反芻しながら肩のデデンネを見る。
「デネ」
デデンネは大丈夫?というように首を傾げた。
「分かりました。バトルしてください、ビオラさん」
「その返答と表情、いいんじゃない、いいんじゃないの!」
ビオラはすかさずクロワの顔をカメラのシャッターを切った。
結果は惨敗だった。最初にデデンネが倒され、後続のヤヤコマ共にビオラのビビヨンの相性的にはクロワの方が有利だったらしいが、攻撃する前に押し切られてしまった感じであった。
クロワはボールに戻す前にデデンネとヤヤコマを抱き上げる。
「デネ……」
「ピィ……」
二匹共申し訳なさそうにクロワを見上げてくる。
「ありがとう、頑張ってくれて。次は勝てるから、私頑張るから!」
「デネッ」
「ピピ!」
元気がないながらに二匹は嬉しそうに返事をした。クロワはそれに笑顔を返して二匹をボールで戻した。
「クロワちゃん、いいんじゃない、いいんじゃないの!」
「え?」
どうもこの女性は『いいんじゃない!』が口癖のようだ。
「貴方、バトルの筋はあるわ。それにちゃんとポケモンを……友達を思いやる気持ちを持ってる。次戦う時が楽しみ!いいんじゃない!いいんじゃない!」
「はい、次は負けません!」
「その意気よ、いいんじゃない、いいんじゃないの!」
ビオラはまたシャッターを切った。
「ひろ、広すぎだろここ……」
その頃エイヴァルは大都会ミアレの片隅で溜息を吐いた。ポケモンセンターには着いたし、一日目は観光に使おうと思ったがどうやら一日ではとても足りなかったようだ。
「モココ、ミジュマル、もうボールに戻っていいぞ」 これ以上自分につき合わせては悪いと二匹をボールに戻し、エイヴァルは空を見上げた。タチワキとは全然違った気もしたし、全く同じな気もした。
そんな彼を一人の人物が見つめていた。そしてエイヴァルはそれに気づいた。
赤いスーツの男だ。エイヴァルは一瞬睨まれているのかと思ったがどうやら違うと思った。
目つきは鋭いがあれは無表情に近い。何の感情も読み取れないという点では。男はゆっくりと歩を進めて近づいてくる。
「失礼。名前は」
「……エイヴァル」
「先ほどのミジュマル……貴方、イッシュの方では」
「はあ、そうですが」
「貴方は世界が綺麗だと思いますか」
「え」
なんだろうこの人、と思いつつ根がお人好しなエイヴァルは律義に答える。
「綺麗……っていうか、ごちゃ混ぜ?」
「ほう」
「音楽で言うといろんな音がある感じの、合わなかったり煩かったりするけど、俺は好きだよ」
「……なるほど」
男は頷く。
「紹介が遅れました。私はフラダリ」
「フラダリ……さん」
「貴方にこれを」
差し出されたのは何かの石だった。丸くて、綺麗で。
「えっと……?」
「貴方なら使う機会があるかもしれない、では。縁があれば」
質問させる間も与えずフラダリは去って行った。
「変な人だなー」
エイヴァルはまた空を見上げた。
蒼いなぁ。ただそれだけを思った。
【131125】