blue valet01
朝、眩しい光に洗われるようにビルがそびえ建つ。カナズミシティのよくある朝であった。
「行くぞ、グラエナ」
ルシナの声に足元で丸まっていたグラエナがぴくりと反応する。朝ごはんを食べ終え、ルシナの出勤を待っているようであった彼女は、ルシナの準備が終わるのをじっと待っていたのだ。
「出勤だ。帰ったらそろそろシャンプーだな、お前も」
「わふ」
彼女はルシナの体にすり寄ったが、彼女がスーツなのを思い出したのか、それは一瞬で。離れて申し訳なさそうにした彼女の頭をルシナは笑ってぽんぽんと撫でた。
「気にするな」
「わふ……」
「暫く夜勤続きだったからな……我慢させたな」
今度はグラエナガが気にするな、と言わんばかりに首を振った。
「……」
デボンコーポレーション。ホウエンに住む者にその名前を知らぬものはいない、という程の大企業。ルシナはSPとしてそこに勤めている。社長、ツワブキ・ムクゲが取引などで外出の時は身辺を守り、そうでない時は簡単な事務の仕事を分担して受け持ったりしている。
「…………」
その仕事をするべき場所、SP事務室、通称待機部屋。そこの扉をカードキ―で開けるなり飛び込んできた情景に、ルシナは沈黙していた、それなりに長く。
「……っ」
すぅ、と彼女の形のいい首筋が空気を吸ったことで僅かに上下する。
そして。
「このトーヘンボクがぁっ!!」
「ふへ!?」
響き渡る大声に怒鳴られた側はようやく起きたらしい。読み散らかされた雑誌に山から起き上がった。
「サクレンッ!! お前という奴は、ああもう、カップラーメンのゴミは片付けろ、私物で机を丸々陣取るんじゃない、読んだものはきちんと本棚にしまえっ!!」
「……耳キーンてした」
怒鳴られたのは先輩、誠に遺憾ながら!のサクレン。だらしなく、しまりがない男、とルシナは認識していた。事実その評価は誰にさせてもそんなものだ。なんでSPできてるの?という声すらたまに聞く。そういう、非常に残念な男なのだ。
「大体なっ」
「ぐぇっ」
思わず喉元に掴みかかって揺するとサクレンは弁解を始めた。
「だーって俺昨日はここ来たの深夜でしたし? ていうかそもそもカードキーどっかに置いちゃってここから出られなくなったんだよねー? ルシナちゃん知らない」
「つくづくダメな男だなお前はっ!!」
「あーシャツが伸びるゥ〜」
「ぺり」
サクレンの足元にいた彼の手持ちであるペリッパーが一声鳴いた。
「あ」
「……」
そのペリッパーがくわえているのは、まごうことなきカードキー。無論、持ち主は。
「お前っ、悪戯も大概にしてよねっ!! 俺マジで出られなくなったのきつかったんだからね!?」
社内随一の悪戯者といわれる彼のペリッパーからカードキ―を取り上げ、怒るサクレンにはなんというか。
「怒る気も失せた……」
自分のポケモンに悪戯されるなんて。グラエナが憐れむように鳴いた、気がした。
【160518】