アンダンテ04


「ヤヤコマ、でんこうせっか!!」
「ぴぃっ」
 ヤヤコマの一撃がキャタピーに当たり、吹き飛ぶ。起き上ったキャタピーはすごすごと草むらの中に戻って行った。
「お疲れ、ヤヤコマ」
「ぴ」
「デネ」
 デデンネが次は私、とでも言うようにクロワに抱きついた。
 クロワ達はハクダンの森で自主特訓をしていたところであった。
 ビオラに負けたから、という理由も多少はあったが、クロワは強くなろうとする以前に、自分の手持ちのポケモンのことを余り知らないことに気付いた。
 例えば今抱きかかえているデデンネは電気だけでなく、フェアリーというタイプの分類にも属するらしい。
 そしてヤヤコマは進化するとタイプが変わるらしい。
 知らなかったことだ。新人である、は言い訳にならないとクロワは思った。デデンネに喜ぶばかりで、突然渡されたヤヤコマに戸惑うばかりで。相性的には勝てたかもしれない勝負を逃した。
 この子達とベストパートナーになってみせる。
 そして修行場にこの森を選んだのであった。


「ぴ」
「どうしたのヤヤコマ」
 その時、ヤヤコマが急に羽を広げ飛び立った。
「え、どうしたのよ、ヤヤコマ!?」
 ヤヤコマは木の葉の群れの中に潜りこむ。するとストン、と地面に何かが落ちてきた。
「え、えっと……コフキムシ、だったよね、これ」
 黒い虫ポケモン。様子がおかしい。そもそも飛べないコフキムシが木の上にいること自体おかしい。コフキムシは苦しそうにもがいている。毒や麻痺の状態異常とはまた違った苦しみ方にも見えた。デデンネと木から降りたってきたヤヤコマが心配そうにコフキムシを見つめた。その反応を見ても、これはやはり異常事態なのだろう。
「それ、いらないや」
 上から声が聞こえる。
「えっ」
「できそこないだったから」
「で、出てきてよ!できそこないって何!コフキムシをこんなにしたのは貴方なの!?」
「やだな、僕じゃない。そのできそこないが自ら望んだんだよ」
「出てきなさいよ!」
「……」
 ガサ、と木の葉がすれる音がした。
 現れたのは二十前半と見られる男だった。黒いスーツに黒いシャツに黒いネクタイ黒い靴、まるで喪服だ。髪も真っ黒で黒くないのは、片目だけだった。
(オッドアイ……?)
 ミアレではコンタクトを付けるのが密かに流行っているからそれかもしれない。男の片方だけワインレッドの色をした目を見て思う。
「ちょっと、あんまり見ないでくれない?コンプレックスなんだからさ」
「あ、ごめんなさい……」
 ということはやはり地なのか。
「あーあー、期待外れ。所詮雑魚しかいない森じゃ、こんなもんか」
「あ、貴方……この子に何をしたの!」
 コフキムシを慌てて抱き上げ、男からできるだけ離す。
「もうそれはいいって。できそこないだし」
「だからそれ何よ!」
「うるっさいガキだなあ。じゃあちょっとだけ教えてあげるけど、そのできそこないのポケモン、もう進化しないよ」
「え……」
「だっから、コフーライにもなれなければ、ビビヨンなんて夢のまた夢!ってこと。苦しいのはその内なくなると思うからほっとくといいよ」
「貴方……」
「……何。説明してあげたのに不満なの」
 クロワは男を睨みつけた。腕の中でコフキムシはまだ苦しそうだ。
「なんで、ポケモンを苦しめるのよ!!」
「は」
「野生でも、友達になることも、一緒に生きることもできるのに!!」
「はあ、じゃあ君がそれと一緒に生きれば」
 睨みつけるクロワの目を正面から受け止めて男は笑った。
「僕はできそこないにかまけてる暇はないからね」
 綺麗な笑顔でそう言って、男はクロワの横を通り過ぎていった。
 残されたクロワは怒りに震えながら、コフキムシに話しかけた。
「ごめんね、君を捕まえる」
 ビオラから餞別にと渡されたモンスターボールを取り出す。
「ふぅ……?」
 コフキムシは薄目を開け、クロワを見た。
「一緒に行こう。私達と一緒に行こう。コフキムシ」
 クロワの言葉をどう受け止めたのかは知らないが、コフキムシは静かに目を閉じた。
「何処をほっつき歩いてるのかなー君はー?おにーさん怒らないから言ってごらんー?」
「うわ、猫撫で声気持ち悪い。ていうかホログラムメール使ってこの会話筒抜けにならないの?」
「そこは、ほら、それちょっと僕がいじってるからー」
「……マルチな奴め」
「ところで、本題に戻るけど、っていうか本っ当、何処にいる!?」
「うわ、素に戻った怖っ。ハクダンシティですけど」
「とっととミアレに来い! 命令だ! もし俺の想定した時間に来なかったら殺す」
「想定した時間ってどれくら」
「教えるか」
「鬼畜だねーレンゴク君は」
「うるさいぞ。とにかく来い」
「わかりましたよぉぉ」
 ホログラムメールを切って、男はふと、森の方を向いた。
「あのガキ、あのできそこない捕まえたのか……ふーん……」


【131126】