アンダンテ07


 5番道路。
 ミアレとコボクを繋ぐ道路である。そこにクロワはいた。
 コフキムシを大事に抱えながら草むらを進む。あれからコフキムシは苦しそうな素振りは見せていないが、どうにも心配だった。
 デデンネは自分のポジションを盗られた、ばかりに恨めし気にコフキムシを見て溜息を吐いた。
「くぅ……!」
 コフキムシはコフキムシで見せつけるようにクロワに甘えていた。
「そろそろコボクタウンに着くかなぁ」
 呟いた時、
「チャッ!!」
「!?」
 影が目の前を横切った。二匹。
「えっと……」
「気をつけて!」
 続けて声をかけられ、はっとするとその影の片方がクロワに飛びかかってきた。
「デネーっ!!」
 ただでさえご機嫌斜めのデデンネのパラボラチャージが炸裂した。影はそれをもろに食らい、地面に倒れた。
「驚いた……、君のデデンネ、強いんだね」
 少し離れたところで話しかけてきたのは赤いキャスケットの少年だった。
「えと……、私、クロワです」
「うん、オレはカルム。よろしく」
 カルムと名乗った少年は、思いついたようにクロワの足元を指差した。
「捕まえたら?」
「えっと……」
 目の前で目を回しているのは白と黒の模様のポケモンだった。口には草をくわえている。
「ヤンチャム、っていうんだよ。オレはさっきの片方をもう捕まえたから」
 何時の間にやらカルムの手にはモンスターボールが握られていた。先程横切った内の二匹の内の一匹らしい。何時の間に。相当慣れたトレーナーなのだろう。
「えと、じゃあよろしくね、ヤンチャム」
 このまま放置しても後で胸が痛むのは容易に想像できたので遠慮勝ちにクロワはモンスターボールをヤンチャムに軽くぶつける。ヤンチャムが入ったボールは三回揺れると、カチっと音をたてた。
「んん、でもどうしよう……ミアレに帰ったらきっと連れ戻される……」
「連れ戻される?」
 カルムが首を傾げた。
「実は……」
 ことのあらましをかいつまんでカルムに話すとカルムは益々首を傾げた。
「ポケモンが進化しなくなる、かぁ」
「はい……」
「その黒い人って何なんだろうね、あ、君ホログラムメール持ってるよね?」
「はい」
「敬語じゃなくて大丈夫だよ。多分そんな変わらない年だろうし。今からグループ作成してオレの友達と通話するけど、いい?」
「は、……うん!」



 それじゃ、とカルムはホログラムメールを起動させた。
「セレナ、サナ、ティエルノ、トロバ。いる?」
『どうしたのカルム』
『いるよー!』
『あ、丁度よかった、今凄いムーブのポケモンが!』
『どうかしたんですか?ところでそちらの方は』
 画面に金髪の利発そうな少女、元気そうな茶髪の少女、嬉しそうな体の大きな少年、小柄な少年が映る。
「クロワです」
「今知り合ったんだ。ところで、君たち、ポケモンが進化しなくなったって言ったら信じるかい?」
『それ、進化キャンセルとか、かわらずのいしとかじゃなくて?』
 お決まりの質問を金髪の少女がぶつける。
「そう」
『まずありえませんよそんなこと……でも、カルムさんがそんな真剣な顔して言うなら、本当なんでしょうね……』
 小柄な少年が難しい顔をして考え込む。
『クロワちゃん、だっけ。その子のポケモン、進化しなくなっちゃったってこと?』
 大柄な少年が画面の向こうから覗きこむように言った。
「そうなんだ」
「コフキムシ、進化しなくなっちゃって……もうコフーライになってもおかしくないのに……」
『サナ、それ聞いた!』
 元気そうな少女が突然叫んだ。
「え、本当かいサナ!」
『ハクダンシティに黒い男の人に会ったって人が、進化しなくなっちゃったって困ってたの……。サナ、何もできなくて……ずっと気になってて……』
 カルムは頷いた。
「クロワもその男に会ったらしいんだ」
『偶然にしては出来過ぎているわね、……クロワ。あたしはセレナ。今コボクタウンにいるから、カルムと一緒にいらっしゃい』
『あ、そうだ。私、サナ!今はちょっとミアレにいるんだけど』
『そういえば自己紹介してなかったねぇ。僕はティエルノだよぉ』
『あ、えっと、トロバです』
「クロワは家の人に黙って出てきてしまったから、ミアレシティには帰れないらしいんだ。セレナの言う通り、コボクに連れて行くよ」
 サナが残念そうに言った。
『そっか残念……サナもうちょっとミアレ歩きたいから、また今度会おうね!クロワちゃん!』
「うん、ありがとうサナちゃん」
 元気で素直な子だ。仲良くなれそうである。サナに限らず。
『僕はちょっとその黒い男について調べてみます』
「頼むよトロバ、じゃあ一旦切るよ」
『ええ』
『ばいばーい!』
『今度は直に会おうねぇ』
『ではまた、クロワさん』
「うん、ありがとう!じゃあ」
 通話が切れた。
「さてと、じゃあ行こうか」
 カルムが草むらを歩きだす。
「ねぇ、ひょっとして」
「ん?」
「カルム君達ってプラターヌ博士からポケモン貰った子?」
「察しがいいね。そうだよ、オレはこの地方に引っ越してきたばかりだけど。それがどうやら博士の琴線に響いたらしくてね」
「ふーん」
「とりあえず、行こう」
「あ、うん」
 クロワはふと思った。羨ましいなと感じた。
 カロスで五人だけに入れたカルム、セレナ、サナ、ティエルノ、トロバが。
 カルムを見れば分かる。彼にはトレーナーの才能がある。他の四人もそういう意味で選ばれた子供達ということなのだろう。なんだかその事実が酷く、羨ましかった。


【131202】