アンダンテ09


「ヤヤコマ、でんこうせっか!」
「ぴぃっ」
 10番道路でクロワはバトルに明け暮れていた。この辺りの野生のポケモンはハクダンシティへの道の時と違って大分強い。それでもミアレに帰る訳には行かない。決めたことはやりきらねば。
 その気持ちをポケモン達も分かっているのか、頑張ってくれている。
「お疲れ様、ヤヤコマ」
「ぴぃ……」
「ヤヤコマ?」
 ヤヤコマが目を閉じると同時に体が静かに、発光しだした。
「え、これって……」
 まさか。
 刹那辺りに散った鋭い光に目を閉じ、目を開けると。
「こまっ」
「……えーと」
「ヒノヤコマだね」
 真後ろから声をかけられ、びくっと振り向くと。赤いストライプのスーツの片目を隠した男性が立っていた。相当に怪しい。微かに警戒したクロワを知ってか知らずか、男は続けた。
「ヤヤコマの進化系だよ。ひょっとして進化初めて?」
「は、はい」
「あ、僕はレンゴク。親しみを込めてレンゴクさんって呼んで欲しいなっ」
「あ……はい……私はクロワです」
 警戒がドン引きになったクロワである。リウトといい自分は男運でもないのか。
「因みにヒノヤコマはもう一段階進化するよ。後、これ」
「え?」
 突然手に握らされたそれに、クロワは目を見張る。金、だ。どう見ても。自分が持つには大金過ぎる額の。
「君、僕と契約しない?」
「契約?」
「黒い男を探してるんだろう?」
「し、知ってるんですか!?」
「さあ」
「教えてください!!」
「それは君が僕と契約するかどうかだなー」
「……」
クロワは無言で渡された金をそのままレンゴクに差し出した。
「あらあ、契約不成立?]
「契約、ていうか、手伝えることはしますけど!お金は要りません!こういうの、私みたいな子供にしちゃいけないと思います!」
 レンゴクは隠していない片目で暫くクロワを見ていたが、やがて大笑いしだした。
「驚いた! 真っすぐだなぁ!! あっはははは!! 大抵はこれで釣れるのに!」
「……」
 嫌な男だな、とぼんやりと思った。しかしレンゴクは狂ったように笑い続ける。それが収まった後、レンゴクは急に真顔になった。
「契約成立ってことで言うけど、探して欲しい人がいるんだよね」
「人探し?」
「名前はAZ」
「えー……ぜっと?人の名前なんですかそれ」
「うん。特徴は体が大きいってことと、花のポケモンの話をする筈だ」
「……」
「そして、君のコフキムシをそんな目に合わせた男の名前を教えてあげよう。交換条件ね」
「!」
「奴の名前はジルコニア」
「ジルコニア……」
「僕も被害にあった一人でね……でも、一人じゃなかなか捕まらなくて」
「レンゴクさんも進化しないポケモンが?」
「まあね、悲しいったらないよー」
全然悲しそうには見えないのだがクロワはとりあえず信じることにした。コフキムシを見る時の苦しみは知っているつもりだ。
「じゃあ、よろしくねー」
 レンゴクは踵を返した後、あ、と言った。
「お金はいらないって言われたけどさすがに何もないのもね」
 押しつけるように渡されたのは石だった。丸い綺麗な石だった。
「え……」
「使う機会があるかは別として。綺麗だろ?いらなかったら売っちゃえばいいよー」
 ひらひらと後ろ手に手を振って、レンゴクは去って行った。
「ジルコニア……」
 それがあの男の名前。
「こまっ」
 その肩にヒノヤコマが止まった。微かな暖かみが、クロワを安心させた。
 レンゴクのホロキャスターが着信した。出ると不機嫌そうな漆黒の男、ジルコニアのホログラムが出てきた。
『人の名前を言いふらす趣味があったとは知らなかったよ。しかも被害あったってなんだよ。頼まれてもやるか』
「そう言うな。なかなかおもしろい子だったじゃないか」
『ていうか、あそこまで行くと馬鹿だろ、馬鹿も馬鹿。おおばか』
「否定はしきれないけど、あの子は化けると俺は思うぞ。というかお前は覗き見ばかりしてないでとっととシャラシティに行け」
『ふん……』
 ジルコニアはホロキャスターを一方的に切るとモンスターボールを取り出した。
「胸糞悪いことだよ。AZもあのガキも」


【131208】