アンダンテ10


「もうここらにはいないみたいだなぁ」
 エイヴァルは5番道路にいた。ミアレにはいないだろう、と検討をつけてゲートを出たのだが、聞かされた容姿の少女はいなかった。
 そもそもその少女がここのゲートを通ったという保証もない訳で。結構きつそうだなあと考えながらもエイヴァルは呑気に歩を進めた。
 「……ここから近いのは、コボクか。いなかったらその後、コウジンかな」
 タウンマップを広げ、うんと頷くと、エイヴァルは頭の上のミジュマルを撫でながら言った。
 「可能性が少しでもあるなら、行かなきゃな! 大丈夫、大丈夫!」
 「ミジュッ」
 「よーし! 全力ダッシュ!!」
 同意するようなミジュマルの声に後押しされ、エイヴァルは5番道路を走っていった。

 

「ええと、ここはセキタイタウン……っと。特に聞いて回るとこはないかな……」
 あっさりとした様相の町にタウンマップの道をなぞる。
 「洞窟を越えれば、シャラシティ……」
 メガシンカおやじと言われる、ひょっとしたらコフキムシを助けてくれるかもしれない人物。
 もし、彼でも駄目だったら。今度は誰を頼ったらいいのだろうか。それでもクロワは洞窟を目指し歩いた。
 「希望が少しでもあるなら、行かなきゃ」
 そういえば、とクロワは思い出す。先ほどの男、レンゴクから聞かされたAZという男のことを。そもそも人の名前とも思えないが、男の情報をもらった以上その『契約』とやらを果たさない訳にも行かない。余りレンゴク自体に未だいい印象を受けないものの、仕方ない。
 そう思いながらセキタイタウンの出口に向かい始めた時だった。
 「でりぃ……」
 「?」
 「でりりぃ……」
 なんだかふにゃっとした鳥の鳴き声のような声が聞こえた。どうも近くの家の影からするようだ。クロワは恐る恐るそこを覗きこむ。
 「……デリ、バード?」
 「でり……」
 そこにいたのはミアレのクリスマスイベントで毎年何度も見たことがあるポケモンだった。デリバードはくたっとしている。今日はなかなかに日差しが強いので、氷タイプであるデリバードに取ってはきついのだろう。
 「えと、飼い主さんは……」
 「でりー……」
 デリバードが後ろの袋から何かを取り出すところんっと転がした。プレミアボールだった。そのボールには『拾ってやってください』と書かれた貼り紙が貼ってある。これは、もしや。
 「あなた……捨てられたの?」
 「でり、でり……」
 よりによって雪もない所に置き去りにするなんて、なんてトレーナーだろう。腹は立ったが、それ以上にデリバードを早くポケモンセンターに連れて行かなければ。クロワはプレミアボールをかざし、デリバードを中に入れると慌ててポケモンセンターに駆け込んだ。
 「でりー!」
 上機嫌でオレンの実を啄ばむデリバードにクロワも笑顔になる。場所はポケモンセンターのエントランス。回復したデリバードはどうやらクロワに懐いたらしくしきりに足元でじゃれつく。デデンネはまたライバルが増えた!とばかりにデリバードを睨んでいるが、このデリバードは結構鈍感らしくその視線に気づいてすらいない。
 「デデンネ、そんなに睨まないの」
 「デネ、デネ」
 じゃあ私も抱っこ!とばかりのデデンネに苦笑して、クロワはデデンネを抱き上げた。久しぶりのクロワの抱擁にデデンネはやっと機嫌を直してくれた。
 「問題はこの子をどうするかね……」
 クロワはポケモンセンターの壁に貼ってあるタウンマップを見やる。フロストケイブ、という文字が目に入った。
 「とりあえずここに連れて行って、逃がしてあげるのがいいかな」
 この旅が終わった後、暑さに弱いデリバードをコンクリートジャングルミアレに連れて帰るのは忍びない。
 「とりあえず、戻ってね。デリバード」
 「でり!」
 プレミアボールにデリバードを戻し、ベルトにセットする。
 「目的が増えちゃったなぁ……」
 それでも、どれも放棄するつもりはなかった。これはきっとクロワの性分に近いものがあるだろう。


【131208】