アンダンテ11
「マーイーカー」
コウジンタウンに向かう途中にそのポケモンに遭遇したエイヴァルの心は躍っていた。
「マー?」
「君すっごいロックだよ! 地上なのにイカ! そのうるるんとしたボディ! 鳴き声! 完璧だ!」
野生ながら人間に慣れているのかそのポケモンは嬉しそうにする。
「マーイー」
ちょん、ちょん。
近寄ってきてエイヴァルの腰のボールをつつく。
「え、いいの?捕まえていい感じ?」
「マーイーカー」
「ありがとう!えーと」
「マーイーカだよ。鳴き声の通りだね」
後ろから聞こえた声に振り向く。声の主はクロワが先ほど会ったレンゴクという男なのだが、エイヴァルがそんなことを知る筈もなく。
「ありがとうございます! よろしくマーイーカ!」
「マー」
モンスターボールの中に嬉しそうに収まったマーイーカと、そのボールを嬉しそうに見るエイヴァルをレンゴクは微笑みながら見やる。
「……君は随分とポケモンを大事にしているようだが」
「? 当たり前のことじゃないんですか?」
「まあ、そうだね。ところで……時に聞くけれど、君は誰かから何かを貰わなかった?」
「……? あ、そういえば。赤い人に石貰いました! 見てたんですか?」
レンゴクの顔が微かに厳しいものになったがエイヴァルは気づかずマーイーカにはしゃいでいる。
「あ、そうだ。お兄さん! ピンクのツインテールの子、見ませんでした?」
「ピンクのツインテール……ああ、見たね」
「本当ですか!?」
「あの子ならシャラシティに向かうとか言ってたなあ」
「あちゃー……そっちだったか……」
エイヴァルは苦笑する。
「まあ、お兄さんに出会えて情報貰えたし、結果オーライ!」
「……君は……ここの……カロスの人間じゃないね? 顔立ちが違う」
「あ、はい。俺はイッシュのタチワキシティの出身です」
「ふーん……」
「?」
「君は少し疑うってことを覚えた方がいいな……?」
「え」
「グラエナ! どろぼう!」
レンゴクの声に影から黒い影が飛び出した。黒い影はエイヴァルの手の中のボールを奪うと、レンゴクの後ろに立った。黒い毛皮にすらりとしたフォルム。グラエナだ。
「ああ!? ま、マーイーカ!?」
「田舎者の君に教えてあげよう。僕らは……俺達は、フレア団」
「フレア団!? プラズマ団みたいな連中が、カロスにも!?」
レンゴクはにやりと笑う。
「あんな低俗で幼稚な思考の奴らと一緒にされても困るが、君にはそう言った方が理解が早いだろうね」
「いやいや、ていうかマーイーカ返せよ!」
「まあ話を聞けよ。ポケモンとの別れなんてこうやって簡単にくるんだってことを知って欲しくてね」
「何の話だよっ!」
「ああ、返すよ? でもこれだけは覚えておくといい。さっきお前はロックだのなんだの言っていたが自分の思いや感覚、エゴをポケモンに押し付けるのは、実に愚かな行為だとは思わないか?」
「な……何が言いたい?」
さっきからレンゴクの話は要領を得ない。何が言いたいのだろう、この男は。貼りついたままの笑顔で全く思考も読めたものではない。正直、気味が悪かった。
「だから、自分個人の考えを押し付けてはいけないよね?」
「そ、そりゃ……でも俺、マーイーカに押し付けたつもりは……」
「まあそうだろう、君は若いし、純粋だ。これは例え話だ。そして、世界単位でそれをしようとしている人間を、お前はどう思う?」
「世界単位?」
「それがフラダリだ」
「フラ……?」
足に何かがぶつかった。モンスターボールだ。これは、
「マーイーカ!? ああ、よかった!」
「圧倒的な力は理不尽に近く、理想の押し付けは罪だ。よく覚えておいて欲しい。来る日の為に」
レンゴクはそれだけ言い残し、スーツを翻し去って行った。
「……何が言いたいのか分からないけど、ごめんな。マーイーカ」
モンスターボールで震えているマーイーカを見ると心が痛んだ。
「……あのお兄さんのそれも、自分の考えを押し付けているだけじゃないのかなあ……」
いなくなってから言ったって仕方がないのだが。
「取り合えずシャラシティに行こう。クロワちゃんを探さなきゃ」
「ミジュ……」
ミジュマルが頭の上で心配そうに鳴いた。
「俺は大丈夫だよ。ちょっと怖かったけど」
釈然としない気持ちは正直、残った。フレア団という組織の詳細も気になる。
しかし今は頼まれたことをしなければいけない。エイヴァルは来た道を引き返すことにした。
【131218】