アンダンテ12


 シャラシティにそびえるマスタータワー。それを見上げクロワは息を呑んだ。
 ここは最初にメガシンカが確認されたところだと何かの本で読んだが、こんなに綺麗で高い塔だとは思わなかった。
「こふぅ……」
 コフキムシが腕の中で身じろぐ。クロワは頷いてマスタータワーへの道を歩き出した。
 本当に進化できるようになるか分からない。ならなかったらどうなってしまうのか。でも、
 少しでも可能性があるのなら、今はそれだけを見よう。不安じゃないと言ったらウソになる。それでも。
 自分ではなく、手助けしてくれたプラターヌ博士、デデンネやカルム達に報いる為にも。
 絶対諦めてはならないのだ。
 


「……ふむう、進化しなくなった……」
 メガシンカおやじことコンコンブルはコフキムシを覗き込みながら言った。
「実は、その件で訪ねてきたのは一人ではないのだよ。残念ながら、私には何もできなかった」
そうですか……」
 あっさりと踏みつぶされた希望にクロワは俯く。しかし、次の瞬間には顔を上げる。
「黒い男について調べておいて頂けますか」
「ああ、勿論だよ。ただ私は機械の使い方が分からないのでね。ほろきゃすたー?は孫は使えるからそれで連絡するよ」
「メガシンカおやじさんの孫ってことは……メガシンカの継承者?」
「そうなるね、しかしどちらかと言えばコルニはジムリーダーが本職だと私は思っているが」
「ジムリーダー、ですか」
「会っていくといい。丁度上に」
「ねえ、お爺ちゃん?お客さん?」
 マスタータワーの上の階段から降りてきたのはきらきらした金髪の少女だった。その凛としたいでたちに一瞬見とれながらクロワは思った。
 やっぱり、選ばれた人って違う……。
「ねえ、貴方ポケモントレーナーでしょ? よかったらジムでバトルしない?」
「えっ……」
「それがいい、バトルはお互いを知る一番手っ取り早い手段だ」
「で、でも……」
 コルニはクロワの方まで歩いていき、じいっと彼女を覗きこむ。
「ねえ、君。なんかその目よくないんだけど」
「えっ」
「こういうこと言うと自意識過剰かもしれないんだけどさ……ひょっとして私に嫉妬……してる?」
「!」
 図星だった、というか言われてこれが初めて嫉妬だと気づいた。
「ご、ごめんさい!わ、私っ」
「ああ、違う責めてるんじゃないの!勿体ないなーって思っただけ」
「勿体ない?」
「正直上でちらっと事情は聞いてさ。君ミアレからここまで初めて冒険したんでしょ。凄いことだよ!」
「で、でもコルニさんみたく凄くも、強くもなくて……」
「難しいこと考えないの!」
 ぴしりと言われ、クロワは益々まごつく。
「だって私みんなみたく選ばれた訳じゃなく、出しゃばっただけで……」
「……ねぇ、選ばれるって何?確かに私の肩書きは特殊だけど、貴方と何も変わらない女の子なんだよ?」
「え」
「ジムリーダーだって挑戦者とは一人のトレーナーとして戦ってる。挑戦者もそう。もしクロワちゃんが私を選ばれたっていうんならそれは今までの挑戦者達も、勿論クロワちゃんだって選ばれてるうんだよ?何よりもポケモンにさ!」
「……」
「少なくともポケモンの為にそこまで頑張れる貴方、尊敬するよ!」
 それは嘘一つない彼女の本心だとクロワには分かった。真っすぐに心に響く小さんの言葉。
「じゃあ、ジムで待ってるね!後次は敬語はなしだよ!」
 コルニは親指を立てるとローラースケートに乗りながらマスタータワーを出て行った。



「あー負けちゃった! それにしてもクロワのヒノヤコマ根性あるね!」
「コルニだって強かったよ。ヒノヤコマ弱点なのに追い込まれちゃった」
 数十分後二人はジムでがっちりと握手をかわした。それと同時に、
「ヤー……」
「どうしたのヒノヤコマ……あ、これって」
「進化だね!」
 光に包まれたヤヤコマは一回り大きな赤い鳥へとその形態を変えた。
「すっごーいファイアローだよ!」
「うん!」
 それを喜び、二人は抱き合ったのだった。
 クロワの心は晴れやかだった。不安要素がなくなった訳ではないが。
 選ぶ選ばれるは問題ではないのだと、自分が行動することで変わった何かもあると。
 数分後クロワの胸にはファイトバッジが輝くこととなる。


【131222】