blue valet02
朝出勤するなりいやな顔をしたルシナをサクレンは苦笑いで見る。
「共同作業、よろしくね?」
「いやな言い方をするなーっ!!」
渾身の拳が彼の腹に決まった。
「初めてお目にかかります、クスノキ館長。ツワブキ・ムクゲの使いで参りましたルシナです」
「サクレンです」
「おお、あなた方がデボンの! いつもお世話になってます」
「いえ、私たちはお手伝いをしているに過ぎません。聞けば潜水艇の完成も間近だとか、クスノキ館長のお力なくてはここまでいかなかったでしょう」
ふわあ、と。サクレンがあくびをした。
「!!」
「いっ……」
すかさず底の厚い革靴で足を踏まれ、相当の痛みだがクライアントの前で大声をあげることもできずなサクレンである。どう考えても彼が悪いのだが。
「? どうかしましたか?」
一連のできごとはクスノキ館長がふと開発中の潜水艇の方を見ていた間に行われていたらしく、彼が気づくことはなかった。
「いえ、なにも」
「はい……なにも」
「視察はご自由に行ってください。なにかあったら呼んでください」
そう、視察。デボンも出資している潜水艇の進み具合と、今後必要になるであろうバックアップを見極める。それがツワブキ社長の威光であった。
「……しかし」
「いってぇ……うん?」
まだ足が痛むらしいサクレンの方を見てぼやく。
「なんでお前は社長直々の依頼が多いんだ?」
「優秀だから?」
「黙れ」
彼の発現はともかく、ツワブキ社長からの直接の依頼を受けることがサクレンは実際に多かった。今回はペアだが個人のみで行く依頼も多かった気がする。
……大丈夫なのか。
「とりあえず、俺は適当にぶらついてるから、ルシナちゃんは視察続けてよ」
「はぁ!?」
「パーツを狙われた事件は知ってるだろ? 外で見張ってる。審美眼ならルシナちゃんの方が上だろうし。中でなんかあったら呼んでくれれば来る」
「……あ、ああ」
なら紛らわしいことを宣言せず、最初からそういえばよかったのに。少し拍子抜けしたルシナであった。
潜水艇はなるほど、外観は既に終わっているようだ。
通り過ぎる研究員に会釈をしながら、それを確認する。この出来だと次に必要そうなパーツは……。
ピックアップが終わり、一息ついた正にその時だった。
「ぶっ殺してやる!!」
開発エリアにまで届く、大声。この声は。いや、まさか。
グラエナがわん、と吠えて入口に向かっていく。それにつられるようにルシナも走り出した。
声の主はやはり、サクレンであった。一人の男ともみ合っているようだ。パニックを起こしたペリッパーが辺りを旋回している。
「おい、もう二度と俺の前をうろつくんじゃねぇぞ、いいな、消えろ」
彼に胸倉を掴まれている男は、なにかを言おうとしているようだが、がくがくと揺すられそれが言葉として口から出てこないようだ。
青い、縞模様の服を着た。
「アクア団だかなんだか知らねぇが、泥棒野郎に割く時間も労力もねーんだよっ!!」
揺すられた後、突き飛ばされ、男は暫く茫然としていたがやがてひぃ、と悲鳴を上げ逃げ出した。
「……」
「サク……」
肩で息をしているサクレンにルシナはおずおずと声をかける。初めてだ、こんな彼は。
「なに」
振り向かない。
「あれは……」
「まだパーツ狙ってたみたい。まあそのものを今回は持ってなかったけど」
やはり振り向かない。
「サクレン」
「……」
やっと振り向いた。ペリッパーをなだめて肩にとめながら。
「ん?」
いつも通りの笑顔が、少し怖くて。なにも言えずにいるとサクレンはまたそっぽを向いてしまった。
「その……」
「気にしなくていいよ、俺のことは」
「え」
「考えなければなそれはいないのと同じだよ。俺は君に一番関わらない方がいい人間だ」
「それは、どういう……」
「まだいないか見てくる」
「あ……」
遠ざかっていく彼とペリッパーを見ながら、ルシナは思う。
私が思っている以上にあの男は複雑ではないのか?と。
【160520】