アンダンテ15


 クロワは訳が分からなかった。
 ジルコニアはなにをしようとしているのだ?
「まあプテラは露払いだよ」
 メガプテラが一声轟くように鳴くと辺りに岩を飛ばす。赤いスーツの男女がいつの間にか周りを囲んでいたが、プテラの攻撃に近づけないようだ。これがフレア団だろうか?
「そして僕はこの最終兵器を……壊す」
「どうやって」
「エネルギーを出しているのなら別のエネルギーを、集めた進化のエネルギーを逆に流して爆発させる。ヒャッコクの日時計でエネルギーの流れはもう把握しているからね」 「そう、これだけ準備が周到にできたのもお前達のお陰だな」
 この声は、
「レンゴクッ……!」
「おいおい、二人して睨むなよ。俺はフラダリの真意を知って動いていた。悪い兵器を使えなくしてやるんだからカロスに取ってはヒーローだろ?」
 レンゴクは無表情で言う。足元にはグラエナがいる。ジルコニアが最終兵器に手を触れる。それを止めようとしたクロワにグラエナが襲いかかってくる。
「フタチマル、シェルブレード!!」
 飛び出したフタチマルがその攻撃を相殺した。
「少しでも余所見したらグラエナで首筋の血管を引きちぎるからな」
 エイヴァルはぎり、と奥歯を噛んだ。
「最低だよ、あんた本当に。俺には偉そうに説教垂れた癖に、それは押し付けじゃないのかっ!」
「悪いのはフラダリだからな」
「そうやって、人のせいにして何か変わるのかよ!」
「エイヴァル」
 クロワがエイヴァルを言葉で制した。クロワは一歩前に出るとレンゴクを真っすぐに見た。
「私、あなたが嫌いだけど。同じくらいあなたを救いたい」
「なにを?」
「だって、こんなことして。こんなことまでして……私にこの石、メガストーンをくれたのだって、本当は迷ってたんじゃあないの?」
「!」
「あ、それ俺フラダリから貰った」
 エイヴァルも石を取り出す。
「石は何も言わない……人間も言葉にしなかったらそれと同じ……だから」
「なにを言ってるんだ?」
「だって私、あなたとまだなにも話してない! 今まで生きてきて感じたことも、これからどう生きるかも……なにに囚われているのかも!」
 クロワは叫んだ。精一杯の思いを込めて。
「あなたもジルコニアも人間に戻って!!」
 クロワとエイヴァル、二人の手の中の石が輝き出した。
 同時にボールから二体のポケモンが出てくる。
 クロワのユキノオー、エイヴァルのデンリュウ。しかしその姿は何時もの姿ではなかった。
「メガシンカ!?そんな、メガリングはない筈……まさか!?」
「まさかだよ、レンゴク」
 ジルコニアが静かに言った。
「こいつら、僕のエネルギーでメガシンカしたんだ……あれだけ溜めたのにもう空っぽだよ、いやたいしたもんだ」
「こふうっ」
 コフキムシがクロワの腕を飛び出す。その姿はコフーライになり、やがて、
 ビビヨンになった。
「……くっグラエナ!あいつらを倒してエネルギーを奪い返っ」
「そんなことしてる場合じゃないよ!」
「あ、カルム!にセレナにサナ!?」
 村の奥の方から走ってきた三人にクロワは目を丸くする。彼らも来ていたのか。
「フラダリさんは最終兵器を暴走させる気だ!避難しないとみんな巻き込まれるぞ!」
 その言葉にフレア団に動揺が走る、やがてカルムの言葉を信じたのか皆が避難しだす。
 しかしレンゴクとジルコニアは動かなかった。ジルコニアは自らの意志で動かないといった感じだったが、レンゴクは完全に呆然としていた。
「ユキノオー!」
「デンリュウ!」
 二人がメガシンカしたポケモンに命じると二匹はすぐさま二人を抱きかかえた。
 そして皆の避難が済んだ頃。

 最終兵器はフラダリの意志のエネルギー派によって砕け散った。


「フラダリ……」
 レンゴクが呆然と呟く。大穴が開いた町に行こうとするのをユキノオーが抑えている。
「なんで、なんでだ! 本気かよちくしょうっ!!」
尚も暴れるレンゴク。
「レンゴクさん……」
「なんで、お前までそうなるんだよ!! 黙って俺に恨まれててくれよっ!!」
 クロワはレンゴクに向かって呟く。
「きっともっと最初に、彼にそう言っていればよかったんだよ……」
 絶叫はやがて、嗚咽に変わった。


「ジム挑戦。いいんじゃないのー」
 ミアレのカフェの一角でエイヴァルはコーヒーを飲みながら言った。
「カロスを制覇したら他の地方にも行ってみたくて」
「おやあ、バッジコレクターですか?」
「まあ、そんなとこ」
 クロワはにへらと笑うと少し真面目な顔になった。
「レンゴクさんやジルコニアのこと、よろしくね」
「任せとき」
 あれから数週間経って落ち着きを取り戻したレンゴクはあれからミアレのいしやで働いているが、どうも別人のようになってしまっている。ジルコニアはあちこち放浪しているらしい。まあのたれ死ぬこともないのだろうが。
「私、旅に出れてよかった」
「うん」
「出なかったらきっと違う人生送ってた」
「そんなもんだよ」
 エイヴァルの優しい言葉にクロワは頷く。そして背伸びした。
「これからハクダンシティでビオラさんに再チャレンジ!してくるからちょっと腕鳴らし付き合ってくれる?」
「いいってことよ」
 二人は席から立ってボールを構えた。
「行けっ、デデンネ!」
「頼んだぜペンドラー!」
 何処にでもある日常がそこにあった。


【131218】
【170702改定】