ア・ピアチメント01


 気に食わない気に食わない気に食わない。
「オスカー、食べるのが汚いわよ。がっつくのはやめなさい」
 母親に窘められてもオスカーは豪快にサラダにかぶりつくのをやめなかった。これは焼け食いだ。
「そんなに島巡りが羨ましいのかしら?」
「俺だって親父がいなきゃ全部の試練を突破できたんだ」
「それについては私はなにも言えないけれど……。でもあの人はあなたのことを思って……」
「はぁ?」
「人はいずれ大人になるわ。その時に島巡りの肩書だけあっても辛いでしょう? あら、そろそろトレーナーズスクールの時間じゃなくて?」
「今日は休む」
「オスカー」
「……わーったよ」
 オスカーはサラダをかき込む手を止め、自室に向かった。



「おはようオスカー」
「はよ」
「なんか機嫌悪いな? さては風邪で休んで、島巡りのトレーナーに会えなかったこと気にしてるなー?」
「どんな奴だった?」
「たいした奴だよ。ポケモンを持ったのはつい先日だったみたいなんだけど。先生まで倒しちゃってさ」
「けっ、俺なら負けなかった」
「お前も島巡りしてたもんな。リタイアしたけど」
「リタイアじゃねぇ!!」
 思わず叫んだオスカーは、クラスメイトの驚いた顔を見て、気まずそうに口を噤んだ後、暫く経ってから呟いた。
「……わり、今日は帰るわ」



「……」
 砂浜で遊ぶ自分のポケモンであるイワンコを見やりながら、ぼんやりと立っていると後ろから声をかけられた。
「オスカー君じゃないか」
「……ククイ博士」
 アローラのポケモン博士、ククイである。彼もまたイワンコを連れており、二匹のイワンコは楽しそうに遊びだした。
「スクールはどうしたんだい。サボりはよくないぞ〜?」
 口調はたしなめるようだが、その言動には深い思いやりを感じる。だからオスカーは怒る気になれなかった。
「……博士は」
「ん?」
「島巡りのトレーナーと会ったんですよね。……後ハウとリ―リエも、旅立ったって聞きましたけど」
「ああ、リオだね。なかなかいい技を使うんだ!」
「……俺だって」
「ん?」
「俺だって……島巡り、してたのに」
 いずれは俺の跡を継ぐんだとレンジャーの父親に強引に島巡りから連れ戻され、トレーナーズスクールに通うようになってから四年。
 その間オスカーには常に焦燥と劣等感があった。島巡りに行く人々を心から祝福できないのも、妬ましく思ってしまうのも、もう嫌だった。
 ククイは暫く黙っていたが、やがて彼に訊いた。
「オスカー、旅に出るかい?」
「え?」
「いやー実はね、今客人が来ているんだよ」
「それがなにか?」
「まあとりあえず会ってみてくれよ」
 背を向けたククイに、オスカーはイワンコを呼んで彼の後を追った。
 研究室に入ると、一人の少年が二人を出迎えた。
「博士!」
 浅黒い肌に、蒼海のような青い髪、夕日のような瞳。余り見ない色合いに困惑しつつも見とれていると、彼は小首を傾げた。
「なに?」
「あっ……いや」
「急に出て行ってごめんなソーガ! 彼の姿が見えたものだから。ソーガ、彼はオスカーだよ」
「博士の知り合いなんだな! 俺、ソーガ!」
 満面の笑みで手を差し伸べられ、戸惑っていると彼の方から手を握ってきた。子供体温なのか温かい。
「それで、さっきの話なんだけどねオスカー」
「は、はい」
「ソーガには捜し人がいてね。でも彼自身はこの地域の地理に詳しくないんだ」
「メレメレ島出身じゃないってことですか?」
「んーまあね! よかったら彼と一緒に彼の捜し人を見つけてくれると嬉しいんだ」
「それが旅に出るってことですか?」
 ククイは力強く頷く。
「そしてそれだけじゃないぜ!」
 続けて渡されたのは赤い機械。
「最新のロトム図鑑は用意できなかったけど、これもポケモン図鑑だよ」
「図鑑……」
「君にはこの図鑑を完成する旅に出てもらいたいと思ってね。あちこち行くのは島巡りみたいでワクワクするだろう?」
「あ、ああ……」
 ここでククイは真面目な顔になる。
「お父さんは僕が説得するよ。島巡りの時はさぞや悔しい思いをしただろうからね」
「はい、ありがとうございます……」
「ま、当面はソーガの捜し人の方を頑張ってくれればいいけどね! 彼の話によると真っ直ぐにアーカラ島に向かったらしい」
「じゃあなんでこいつ、ソーガはメレメレ島に来てるんですか」
 それにはソーガがあはは、と笑いながら答えた。
「船を間違えたんだ! でもこうやってククイ博士に出会えたしね!」
 楽天的な奴なんだなぁ、とオスカーは思った。


【170315】