ア・ピアチメント02
「そういえばよー」
「ん?」
場所はハウオリシティのマラサダショップ。そこでマラサダを頬張りながらオスカーはソーガを見やった。
「お前、ポケモン持ってない訳?」
「あー……持ってないねぇ」
「なんで」
トレーナーではない人間は少なくはないが、目の前の活動的に見える少年が相棒を持っていないのは少し不思議に思えた。
「……許されて、なかったんだよねぇ」
「は? 親に?」
「そんなとこ」
「……」
親に島巡りを邪魔された自分と、ポケモンを持たせてもらえないソーガ。
似ているのかもしれない。と同時にオスカーの胸にむくむくと怒りは湧いてきた。
「行くぞ」
「へ?」
「テンカラットヒル」
「俺、知り合い探さなきゃいけないんだけどなぁ〜?」
「うっせぇ足動かせ」
「ええ〜?」
ソーガは困ったように、それでいて穏やかに笑いながら自分の手を引くオスカーに着いてくる。知り合って間もないがそれでもわかるくらいにこいつはいい奴だ。
彼にポケモンを与えたいという自分はなんて勝手で、単純なのだろう。それでも、オスカーは彼にポケモンを持って欲しかった。自分が島巡りから連れ出されて荒れていた時ずっと傍にいてくれたのは今横を歩いているイワンコだ。そうだ、きっと自分は彼にポケモンを好きになってもらいたいのだ。
自分は彼のことをよくは知らない。向こうもそうだろう。でもお節介になにかしてあげたくなる気持ちはどうにも止められなかった。
テンカラットヒル。
「俺のイワンコもここで捕まえたんだ」
「へぇ〜」
洞窟の奥を進みながら、名前を呼ばれたイワンコはワン!と吠えた。
「お前なんか欲しいポケモンいんの。希望訊かないで連れてきちまったけど」
「そうだなぁ。青が好きだから青いポケモンがいいかも」
「青、そういえばお前の髪、綺麗な青だよな」
「え……」
ソーガの顔に初めて笑顔以外の表情が浮かんだ。戸惑っているような、信じられないというような表情だ。
「綺麗……かな」
「お、おお……なんか気に障ったか?」
「いや、びっくりしただけ……」
「そ、そうか……」
気まずい雰囲気が流れる。それをなんとかしようとオスカーが口を開きかけた時、
「ワン!!」
イワンコが大声を上げて、テンカラットヒルの奥に走って行った。
「あ、おい!! イワンコ!」
「追いかけよう!」
先ほどの気まずい空気も忘れて、二人は走り出した。
イワンコを追いかけて最深部の開けた場所に出ると、一匹の青いポケモンが倒れていた。
「これって……」
色こそ違うが、姿形はオスカーのイワンコとうり二つである。つまり。
「色違いのイワンコだ」
「色違い……?」
「たまにいるんだよ。突然変異みたいなものかな」
「へぇ……怪我してるのかな?」
「あっ、おい野生に迂闊に触ると……」
「ガウ!!」
倒れ伏していた青いイワンコがソーガの腕に噛みついた。
「いった」
「あ、おい!」
「大丈夫だ、オスカー君。この子、怖いだけだから」
ソーガはそう言って毛を逆立てる青いイワンコの背中を人撫でした。するとどうだろう、青いイワンコが一瞬にしておとなしくなった。噛みついた牙を離し、何かを尋ねるようにソーガを見る。ソーガが笑いかけるとほっとしたような顔になりその足にすり寄った。
「ね?」
「お前……何もん?」
率直に尋ねると苦笑が返ってきた。
「俺についてはその内、ね」
自分はまだ彼に信頼されていないのだろうか。先ほど会ったばかりの人間を信用するというのも確かに無理な話だが。
「オスカー君、俺、この子連れて行きたいな。怪我してるみたい。ポケモンセンター連れて行きたい」
「……」
「オスカー君?」
「あ、おう! ほらボール使えよ」
「え?」
「ついでに自分のポケモンにしちまえよ」
「え」
「そいつ青いじゃねーか」
「あ、うんでも、いいのかな」
青いイワンコはオスカーからソーガに手渡されたボールを期待に満ちた目で見る。
「ほらこいつも満更でもねぇじゃん」
「うん……イワンコ、俺と来てくれる?」
「ワン!!」
ソーガがボールを差し出すとイワンコは鼻先でそれを小突き、ボールに収まった。
「よかったな」
「うん、君のお蔭だよ。オスカー君」
「俺はなにもしてねーし……」
「はは、照れてる」
「ちげぇ!!」
じゃれつきにも似たやり取りをする二人をオスカーのイワンコが嬉しそうに見ていた。
【170315】