ア・ピアチメント03


 船が風を切る。オスカーとソーガはメレメレ島からアーカラ島への連絡船に乗っていた。
「風が気持ちいいな、オスカー君」
「そーだな。俺もメレメレ島を出るのは久しぶりだよ」
「そういえばオスカー君は島巡りしてたんだっけ」
「ああ。クソ親父に邪魔されたがな」
「……そっか」
 ソーガが眉根を下げながら苦笑すると船の奥から誰かの叫び声が聞こえた。
「野生のポケモンだ!! ハウオリから乗り込んだようだぞー!!」
 その声に続いて二匹の黄色い影が船主の方の甲板に出ている二人に向かって走ってきた。
「あのポケモンは……」
「ピチューだ!」
 そう、ハウオリで時折見かけるポケモン。その二匹が甲板を縦横無尽に走り回っている。乗組員が慌てて捕まえようとしているがなかなかに素早く、一向に捕まらない。
「マロン、頼める?」
 ソーガはテンカラットヒルで出会った色違いのイワンコに『マロン』という名前をつけていた。イワンコという名詞だけではオスカーのそれとごっちゃになるから、という理由だった。因みにソーガのマロンがメスでオスカーのイワンコがオスだ。
 そしてたった今呼ばれたマロンはわん!と一声鳴き、二匹のピチューの進行方向に華麗に躍り出、妨害した。戸惑ったピチューが立ち止まる。
 その隙をついてソーガがピチュー二匹を抱えた。
「兄ちゃんありがとうよ」
 乗組員の一人が労いの言葉をかける。
「悪さをしようとしたのではないみたいですよ。この船に積まれる荷物の中でうっかり眠ってしまったようです」
「……?」
 まるで実際に見ていたかのような言い分だ。乗組員もそれを察したのか怪訝な顔をしたが、ソーガの予想だろうと踏んだのか、笑顔に戻った。
「とりあえずカンタイシティに着いたら折り返しの便に乗せるよ。こっちに渡してくれると嬉しいな」
「あー……それは」
「びぅ!!」
「ちゅー!」
 乗組員がピチューを受け取ろうと手を差し出すと二匹は毛を逆立てて激しく威嚇した。ばちばちと電気が鳴る。
「なんか、人見知りするタイプみたいですね……」
「あはは、参ったな」
「……」
 まただ、とオスカーは思う。マロンの時と同じ。出会ったばかりのポケモンがもう懐いている。乗組員の方にはてこでも動かないのに、ソーガの腕の中には収まっている。
「アーカラでの用事が終わったらハウオリに返しますよ」
「そうかい。兄ちゃん任せていいかい?」
「はい」
 動力室の方に去って行く乗組員を見送りながら、ソーガはオスカーの元へ戻ってきた。
「お疲れだったな」
「まあね」
「びっ!!」
「ちゅうう!」
「なんだよ、やんのかよ?」
「小さいポケモン相手に張り合わないでよ……」
 そんな会話をしていると陸が見えてくる。ソーガは身を乗り出しオスカーに尋ねる。
「あれがアーカラ島なんだね!」
「ああ、まーな。……お前さ」
「ん?」
「なんでもねぇ」
 オスカーは首を軽く振る。どうもこの少年には奇妙な違和感を感じる。思い起こせばその蒼海の髪に、夕焼け色の瞳に思わず見とれた時だ。それがなんなのかわからないまま、二人で旅をしている。
(でも、多分気のせいなんだろうな)
 オスカーは自己完結する。いきなり『お前、変じゃねぇ?』と聞くのもなんだかそれこそ変だ。



 その時船がカンタイシティに停泊した。
「そんで、捜し人って何処にいんだよ」
「俺が聞いた時はせせらぎの丘って言ってた!」
「水の試練のとこか。キャプテンがいる筈だな」
「へぇーキャプテン!」
 むぎゅ
「ん?」
「どしたの」
「なんか踏んだ」
 柔らかいガムのようなものを踏んだ感覚に片足を上げると、奇妙な黄緑の生き物がいた。
「なんだろ」
「さー……」
 思わず拾い上げようと手を伸ばした時だった。
「それに触っちゃダメですー!!」
 大声が聞こえた方を見やると金髪に青縁眼鏡の青年が走ってくるところであった。青年は見たことのない緑の草ポケモンとムウマを連れている。ムウマはハウオリの霊園にいるので珍しくはないがもう片方は別地方のポケモンだろう。
「そういえば」
 ククイ博士からもらった図鑑は全国対応していた筈だ。取り出し調べてみると、あった。ロズレイドというらしい。
 そうこうしていると青年は二人の前までやって来た。なかなか美丈夫で、背が高い。モテるのではないだろうか。少し息を切らした青年は、鞄の中から緑と黒基調のキューブを取り出した。するとどうだろう、先ほどオスカーが踏んづけた謎の生物がそれに吸い込まれていった。
「な……」
「おお」
「ふう!」
 一息ついた青年は驚いているオスカーとソーガの方に向き直り、眼鏡をくいっと上げた。
「申し遅れました。アリマと言います。カロスのプラターヌ博士の助手をしているものです。アローラには先ほどのようなジガルデセルを回収しに来てます」
「じがるで……」
「ええ、さっきみたいな奴を集めてるんですよ。……わあ、ピチューだ!可愛いですね!」
「あ、いきなり触ると……」
「ヂュー!!」
「ぎゃああああ!!」
 ピチューの片方に無遠慮に手を伸ばし電撃を受けるアリマと名乗る青年に二人は顔を見合わせた。 


【170317】