ア・ピアチメント05
二人は当初の予定通りせせらぎの丘を訪れていた。
「なぁ」
「ん?」
「捜してる奴が見つかったらお前どうすんの?」
「どうするって……」
オスカーはにっと笑う。
「このまま俺に着いてこいよ」
「え、それは」
「……だめか」
「だめっていうか。俺も君といるのは楽しいけど……」
オスカーは内心がっかりした。色々な事情があるのはわかるが、今だけは肯定して欲しかった。捜し人が見つかったら彼は自分から離れていってしまう事実を突きつけられたみたいで。
「行こうぜ」
結果素気なく言う結果になってしまい、ソーガも気まずそうにオスカーの後を追う。そんな顔がさせたかった訳じゃないのに、つくづくうまく行かない。
「あら、オスカーさんじゃないですか」
その時、声がかけられた。鈴を転がすような水のように透き通った声、それには聞き覚えがあった。
「……スイレン」
「試練以来ですね、オスカーさん」
「お前にボコボコにされた後俺は連れ戻されたっけ」
スイレンはうふふと口元に手を当てる。
「イワンコは水に弱いですから……。仲間を増やすことをおススメしましたっけ」
「誰?」
ソーガは不思議そうな顔をしている。
「あー、こいつ。キャプテン。キャプテンは分かるよな?」
「キャプテン!? こんな可愛い女の子が!?」
「わたしの可愛さにつられましたね。ありがとうございます」
「こう見えてえげつないんだぞ、こいつ」
「うふふ」
「そういえば、ソーガ。お前捜してる奴のこと聞いたら?」
「あ、そうだった。スイレンさん、ここにオボロって人が来たと思うんですけど……」
(オボロっていうのか)
そういえば名前を全然聞いていなかった。
「オボロさん、来ましたよ。美しい方でした」
「女なのか」
「そうだよ。言ってなかったね」
「オボロさんならヴェラ火山に向かいましたよ」
「またキャプテンとこか」
「そうですね、元々試練の場所を巡るつもりでキャプテンが特に多いアーカラ島を選んだそうです」
「なんのために?」
「それがですね、島巡りの風習に代わるなにかを探してるそうです」
「なにか?」
「ええ、何故かは話してくれませんでしたけど。島巡りの風習を大切にしつつ、新しい決まりを作りたいそうで。まだ具体的な展望がないので、島巡り自体について勉強しているようです」
「……そうだったんだ」
ソーガは口元に手を置き、思案した後オスカーに向き直った。
「ごめん、もうちょっと付き合ってくれる?」
その言葉にオスカーの心は躍った。この気立てのよい少年とまだ暫く冒険できる。
「あれ!? ピチューは?」
ソーガが声を上げ、オスカーも気がついた。二匹のピチューがいない。あっ、とスイレンが声を上げた。
「奥に行ってしまったのでしょうか。まずいですね、最近ぬしポケモンの機嫌がよくないのですよ」
「なんだって!? おいソーガ行くぞ!」
「んん……ぬし?」
「めっちゃつえぇポケモンだ。ピチュー共が突っ込んだら消し飛ぶぞ!」
丘の奥に駆けていくオスカーをソーガを慌てて追いかける。急がなくては。
「ぴぅ……」
「いたぞ! あそこだ!」
震える二匹のピチューの傍には、大きな魚群のポケモンが迫っていた。
「あれがぬしポケモンのヨワシだ。どうする……俺もソーガも岩タイプしか持ってねーぞ!」
「とにかく、連れ戻そう!」
ヨワシがピチューたちにみずでっぽうを噴射する体勢に入る。このままでは。
「オスカー!?」
体が勝手に動いた。オスカーはピチューたちを掻き抱く。その時、彼にはみずでっぽうが浴びせられた。よろめき、こけかけるが持ち直す。
「お前らが懐いてないのは知ってるが、じっとしてろよ!!」
攻撃の痛みを感じない訳ではなかったが思考の遥か外だった。
「ヨワシ、いけません! 戻ってください!」
後から来たスイレンがヨワシを宥めている間に、ソーガと彼女のいる安全圏に避難した。急に痛みがリアルなものになり、地面に転がり、体を投げ出した。
「オスカー! しっかりして!」
「はは……ピチューたちは無事か?」
「チュウ……」
「ピ……」
二匹のピチューもオスカーの周りに集まり、その顔をペタペタと触る。そうこうしている内にスイレンに一言二言言われたヨワシは水辺の奥に戻って行った。
「無茶ですよ、オスカーさん。怪我はたいしたことないみたいですが、念のため医者には見てもらってください」
「おうよ……てて」
「オスカー、君は、すごいね」
「なにが」
「俺、なんもできなかったから……」
「お前が気にするようなことかよ」
「でも!」
ピチュー達がオスカーにすり寄る。
「懐いたみたいですね、そのまま手持ちに加えたらどうですか?」
オスカーは息を吐く。
「だってさ」
「ぴぃ!」
嬉しそうにするピチュー達に、オスカーはにっと笑った。
こうしてオスカーの手持ちにピチュー二匹が入ることになった。
【170323】