ア・ピアチメント06


 ヴェラ火山公園。
「ここまで来たのは初めてだな」
「ここも島巡りの場所だよね。オボロ様はなんのヒントを得ようとしてるんだろう……」
「オボロ様?」
 立ち止まって振り向いたオスカーに、ああ、とソーガは苦笑する。
「つい癖で」
「癖」
「オボロ様は俺の村の村長の娘なんだ」
「村」
「うん、エハ島のカナロナ村っていうんだけど。あ、エハ島は島巡りとなんの関係もないんだけどね」
 ソーガの苦笑が質の違うものになった。どっちかというと苦々しい印象を受ける気がする。
「ソーガ……?」
「まあ、村長の娘だから様づけなの」
「ふーん……」
 これはまだ隠してることがなにかあるな。そうは思ったが聞き出すことはしなかった。なにを背負っているのか測りかねるし、黙っているということは話したくないのだろう。
 双方無言になり、火山を進む。
「ん?」
 オスカーは草むらの奥から視線を感じた。鋭い刺すような視線だ。肩に乗っているピチューたちも気づいたのか警戒するように毛を逆立てているしソーガも身構えている。
「オスカー、ポケモンだ」
「わかるんか」
「怒ってる訳じゃないけど、気は立ってる……あ、勘だけどね!」
「気をつけろよ。お前はマロン出せ」
「うん」
 ソーガがボールからマロンを出す。マロンはよくわかっていないようで遊んでもらえると思ったのかソーガの足元にじゃれた。
「あ、おい」
 ソーガが窘めようとしたときだった。それが、動いた。
「! イワンコ、行け!!」
 ボールを投げる。オスカーの足元に現れたイワンコは突進してきたそれにたいあたりした。
「ギッ」
 短い鳴き声がしてそれが地面に転がった。オスカーは図鑑を取り出す。図鑑が表示させた名前は『ヤトウモリ』。
「気をつけろ、こいつ毒タイプだぞ!!」
「ヤト……!」
 ヤトウモリは首を振り、オスカーたちに向きなおる。そして威嚇するように皮膚をわななかせた後、こちらに突進してきた。ソーガの方だ。
「させるか!!」
 イワンコに指示を出そうとしたときだった。ヤトウモリはあろうことかコースを変えて指示を出そうとしたオスカーに向かってきた。イワンコが焦るが既にソーガの方に行ってしまっており、間に合わない。
 結果オスカーはヤトウモリの突進をもろに受けてしまうことになった。もろに食らった肋骨が軋む。
「野生の癖にやるじゃんか……!」
「オスカー! マロン、止めて!!」
 ソーガはなにを止めたいのかと思っているとよろめいて後ろに出した足は地面を踏まなかった。崖だ。
(あ、死んだかも……)
 走馬燈なんて流れなかったが、時間はゆっくりだった。ヤトウモリが先に崖に飛び込んで行ったのを横目で確認しながらオスカーの体は崖下に落ちて行った。



「……?」
 体が痛い。起き上がると左腕に激痛が走った。なかなかえげつない色の痣になっているが折れてはいないらしい。
「生きてる……」
「トウ」
「あっ、お前」
 目の前にはヤトウモリが、恐らく自分を突き落としたヤトウモリだろう。文句を言おうとするとヤトウモリはオスカーの傍まで来て、オスカーの無数のすり傷をペロペロと舐めた。
「……死ななかったからいいけどさぁ。ピチュー、いるか」
「ピ」
「チュー!!」
 一緒にいた二匹のピチューは特に怪我はないようだ。見ると自分の下は草や蔦でクッションのようになっており、ヤトウモリは自分を殺そうと思って突き飛ばしたのではないようだ。
「まぁ許すけどさぁ……」
「ヤトウ!」
 ヤトウモリはその言葉に踊るよにその場でくるくる回った。そしてその後、奥の方に走っていった。
「どこ行くんだよ!?」
 そこそこ痛い体を引きずりながらピチューたちと共に向かう。
 奥の行き止まりになっている開けた場所には、リュックの残骸のようなものと、ヒールボールが落ちていた。
「んん?」
 ヤトウモリはボールを示し、悲しそうな顔をする。オスカーが拾ってみると、ボールは既に使用されたもののようで、捕まえたときのみ作動するポケモンを戻すときのボタンがついている。つまりこのボールはポケモンを外に出した状態なのだ。
「ひょっとしなくてもお前?」
「トウ!」
 嬉しそうに鳴いた後、今度はリュックを指さした。示されるがままにリュックを探ってみると中には毛布やポケモンフード、あとは封筒が入っていた。封筒の中を検めてみると、手紙が入っていた。
『ひどいトレーナーでごめんなさい』
「お前、捨てられたのか」
「ヤトウ」
 リュックの古ぼけ方から見てみると恐らく相当前だ。それなのにこのヤトウモリは毛布やフードには手をつけなかったらしい。
「なんでかって聞いて、お前が喋ってくれたらよかったんだけどな」
「ヤ?」
 前のトレーナーと決別したのか、暫くは野生として生きることを選んだのを、寂しくなってオスカーを呼んだのか。
「俺酷い人間だから、お前のことまた人間に縛っちゃうよ?」
「ヤトウヤトウ!!」
 どうやら異論はないようだ。
「あ、その前に」
「?」
 オスカーはまたリュックの中を探る。
「おいで」
「ヤ?」
 不思議そうに近づいてきたヤトウモリの首にオスカーはリュックから出した赤いスカーフを巻く。
「完全には忘れてやんなよ」
「ヤト……」
 ヤトウモリは前足でスカーフに触れると、嬉しそうに鳴いた。頷いて、ヒールボールを拾う。
「よし、戻れヤトウモリ」
「トウ!」
 ヤトウモリの入ったボールをベルトにセットしながら、オスカーは唸る。
「さて、どうやって元の道に戻ったもんかね……」


【170711】