君が生きる物語01


 キッサキシティの大きな屋敷。

「坊ちゃん。イチト様」
 僕の名前をじいやが呼ぶ。
「おはよう……」
「おはようございます。朝食を摂られたら、少し会わせたい者が」
「ん、わかった」
 恐らく新しい使用人が入ったのだろう。時折ある。僕は起き上がって、伸びをした。横ですやすや寝ているスボミーがころんと願えりを打ったので、僕は起こさないように布団をそっと出たのだった。
「すぐ行くよ」



 結論から言って、とても意外だった。使用人が入ったという読みは当たっていたが、いつもおじいちゃんやおばあちゃんが入ってくるのに、目の前にいるのは僕と同じくらいの少年少女。
「イチト様、此度新しく入りました。メイドのヒスイと庭師のコテツでございます」
「あ、うん。よろしくね」
 メイドの服を着ていたから大体察していたけど、髪型の複雑な緑髪の女の子は僕をじっと見てくる。ツナギを着た背の高い金髪の男の子はにやっと笑った。
「かわいい顔してますね。女だったらわかんなかったかも」
「え」
「こら! コテツ!」
 じいやに一喝され、男の子、コテツ君は首を竦める。それをジト目で見ていた女の子、ヒスイさんは黙って一礼した。
「イチト様のために……頑張らせて……頂きます」
「俺も! シンオウ一、いや世界一の庭にしちゃうもんね!」
 どうやらこの二人は対照的な性格らしい。僕はさっきも言ったけど、こんな年の近い使用人と接したことはなくて。少し緊張しながら手を差し出した。
「よろしく……」
「……はい」
「よろしくお願いしまーす!」
「二人はポケモン持ってるの?」
「……持って、います」
「俺も持ってます!」
 じいやは口うるさいけど僕の気持ちを汲んでくれる。まだ僕はこの二人と話していたい。本当はこの後ヴァイオリンのお稽古しなくちゃいけないんだけどね。
「見せて、欲しいな」
「見せておやりなさい。坊ちゃんはポケモンが好きなのだ」
「……はい」
「がってん!」
 二人は腰の辺りのボールを取り、自分の近くに緩やかに投げた。
「ポチャッ!」
「……トル」
 出てきたのは青いポケモンと緑のポケモンだった。見たことないポケモンだ。
「ポッチャマ……の、パオラ……です」
「ナエトルのジュレでっす!」
「へぇ……」
「ポチャ」
「……ナ」
「あ」
 パオラがジュレを突然殴った。
「……だめ」
 ヒスイさんに窘められパオラは露骨に落ち込んだ。ならやらなきゃいいのに……。
「ジュレもやり返せよな〜」
 コテツさんに抱きかかえられジュレは首を傾げた。あまり殴られたことは気にしていないらしい。
 なんかポケモンまでお互いに対照的だなぁ……。
「坊ちゃん! ベッドでスボミーちゃんが泣いていますよ!!」
 広間に別のメイドが入ってきた。
「あ、いっけね……」
 そういえばそろそろ起きる時間だった。
「ヒスイさん、コテツ君! 僕行くね! また話そ!」
「では私は二人に屋敷の内部でも教えますかな。ポケモンは出したままでいいですぞ」
「……はい」
「はーい」
「返事ははっきり! 伸ばさず!」
「はい」
「はい!」
「よろしい」



「ごめんね。スボミー、寂しかったよね」
「ボミー!!」
 イチトの胸でわんわん泣くスボミーをあやし、イチトは呟く。
「やっぱり、僕じゃだめだね……キチト」


【170811】