フライアウェイ・シンドローム04
「こんにちは」
「誰じゃ?」
白い髪の男は黒髪の少女に笑う。
「あなたと同類かもしれないし、違うかもしれない。限りなく近いところにいると思いますがね」
「ほう、随分とほざくな。用もなしに来た訳でもないのだろう?」
「お話が早くて助かりますよ」
「……」
「……ゴン」
「なにこれ」
シノがキオの方に向き直ると、キオは指をぐっと立てた。
「アローラではメレメレ島にいるポケモンだからシノはわかんないよね、ゴンベだよ!」
「ゴンベ」
あの後落ち着いて家に帰って、泣き疲れてしまって、これが本当に恥ずかしいのだが、寝てしまったシノが起きると朝食とこのゴンベがいた。
「君がキレて投げて振り払ったボールに入ってたんだよ。シノになんか似ててシノにはこの子がいいなって」
「似てねぇよ」
「因みに色違いだよ」
「だろうな」
そう応えたのは訳がある。この兄はそういう体質なのだ。珍しいはずである色違いのポケモンの方から彼の元に集う。あのムーランドも元は色違いのヨーテリーだったのだ。幼かったシノもあれがいいとごねたことがある。
「俺にこれをどうしろっていうんだ」
「もー! 観念してポケモントレーナーになりなよー!!」
「……」
「なにかあるの?」
キオはいつもそうだ。シノが少しでも含むものがあるとき、それを察し訊いてくれる。勝手に家出してしまったことは許しきれていないが、そういうところが変わっていないことに心が少し温かくなった。
「自信がない……」
「ん?」
「ポケモンのトレーナーになるって、“おや”になるってことだろ?」
「うん」
「俺は、兄さんが思ってる以上に悪いことしてるし、頭がいい訳でもない。このゴンベを不幸にするかもしれない」
「……」
「だから、このポケモンは兄さんが……」
「シノ、僕お腹すいたな」
「は?」
「ゴンベも空いてるって」
「いや」
「一緒の作ってよ。このゴンベってポケモン大体のもん食べるから。じゃあ頼んだよ!!」
言い捨ててリビングに行ってしまったキオに呆気に取られているとぐぅ、と隣で音がした。ゴンベが発生源だ。本当のお腹が空いているらしい。
「ったく、しゃーねーな……」
シノは溜息を吐くとキッチンに立った。
「おいしーい!」
「ゴン!!」
「オムライスぐらいで大げさなんだよ」
「いやーわかる? 久々に食べる弟の手料理! いっつもご飯作るのはシノだったもんね」
「あんたにキッチン立たせて火事になりかけただろ」
軽く返しながら、シノはゴンベを見る。シノの作ったオムライスをがつがつと食べている。その様子は酷くかわいらしい。
「……」
「シノ。自信なんて、大抵の場合、誰にだってないんだよ」
キオがオムライスを頬張りながら言う。
「でも。やればできちゃうもんだし。僕はシノとポケモンに対していろんな話がしたいな」
「俺だってしたい……」
「じゃあ決まりじゃない」
キオはシノに耳打ちする。
「この子のNNだよ。呼んであげて」
「……」
不安だ。
でも、それ以上に。
「ざらめ」
俺はこのポケモンの“おや”になりたい。俺の料理をおいしそうに食べてくれるポケモンに。
「ゴン!」
ざらめは笑顔で応えてくれた。
「……どうです?」
男が取り出した鏡に映った映像に少女は興味なさそうに返す。
「なにがじゃ?」
「イライラしませんか。私はしますよ。……彼の魂そのものに苛立っているのもありますが」
「……たわけ。主の因縁なんて知らぬわ。さっき主は言ったな。わらわと主は同類だと。それは間違いというもの。頭の先からつま先までなに一つ同じものでできておらぬわ」
「交渉は決裂ですか」
「そう取ってもらってもかまわぬな。……主がここでなにをしようとしているかなど、わらわは手に取るようにわかる。出過ぎるな。それだけだ」
「おお、怖い」
男は鏡をしまうと、笑った。
「でも、あなたとことを構えるのも一興。あなたも私が憎むべき人間の一人ですから」
「……哀れな奴よの」
「ご安心を。今はありませんから」
「どうだか」
「もう失礼しますよ」
男は立ち上がり、その場を後にした。
「リーン……」
男の手持ちであるチリーンが鏡の上で揺れている。その念波が鏡が映す領域を拡張しているのだ。タッチパネルに触れるように男は様々な風景を見る。
「アテが外れた以上、自分でやるしかないですね……。売り言葉に買い言葉とはいえ彼女とことを構えるかもしれなくなってしまった以上、そろそろ“器”を変えた方がいいかもしれませんね」
ふと、男の手が止まる。にやり。笑った。
「ちょうどいいのがあるじゃないですか」
【170830】
笑さん宅ミツキさんお借りしました。