僕らの大都会闘争03


 嫌いだ。
 嫌いだ。
 全てが嫌いだ。



「くっくく……ぶは……!」
「まだ笑ってんの……もういいけどさぁ……」
 フェーナが溜息を吐き、運んできたコーヒーをアングルの前に置いた。
「さんきゅー。ところでよ」
「カルネサマならいなかったでしょ?クールベもドラも帰っちゃったし、ていうか俺も帰りたいんだけど」
「どーせ帰る方向一緒じゃないか」
「だからやなんだよ」
「なーんでぃ」
 コーヒーに一つミルクを入れながら口を尖らしたアングルは、ふと思いついたように真剣になった。
「通り魔がいるのさ」
「ああ……最近噂になってるね」
「だからさ」
「え、心配してくれてんの」
「悪いか」
「ううん……」
 アングルと出会ってから感じていた感情は自分勝手な奴だな、だったが意外と友達思いではあるようだ。……だったら名前で呼んで欲しいものだが。
 アングルはほぼなにも気にしてない様子でコーヒーを飲んでいたが、窓の外に視線を移した途端、目を丸くした。
 それを怪訝に思い同じ方向に目を写したフェーナも案の定同じく目を丸くした。
「カルネだ」
「カルネ様だ……」
 あの大女優カルネが大通りを歩いている。
 きっち上げられた黒に近い綺麗な髪、透き通る肌に載せられた控え目な化粧。まるで強い意志を秘めたかのような目。……母親の買ってきた雑誌にそのような表現がされていたのを見たが、実際見てみるととても言葉で表現できたものではない存在だった。唯一表せるとしたら「美しい」。それ以上はとう頑張っても蛇足になるようだった。  熱心でないファンである自分ですらそう思うのだから、アングルはさぞやと思って彼の方を向いてみると。
「……」
 意外にも落ちついた顔で、コーヒーを啜っていた。正直意外だ。
「いいの? 声かけなくて」
「ん」
「どうしたの」
「……俺は」
 アングルは何かを言いかけてやめた。視線でその続きを促しても言う気はないようだ。それきり彼は押し黙り、カルネの方を見向きもしなかった。
 それに対する疑問を再度投げかけた時だった。
 カルネが動いた。
 自分から動いたのではない。なにかに突き飛ばされたのだ。
「あっ……」
 なにかを見定める前に、その影は大通りの向こうを走って行った。
 近くにいた何人かが、彼女を助け起こしている。
 フェーナも思わず喫茶店を飛び出す。影を追いかける。影が走った方向に走り出す。あっちは確か。
「プリズムタワーだ!」



 大きな塔がそびえる。そこに出たフェーナは周りを見渡す。自分以外に影を追いかけてきた者はいなかったらしく、のんびりとしたミアレの昼下がりを皆が満喫している。
 辺りに影はいなかった。影の大きさから言って、ポケモンだと思うがかなり素早いポケモンだったのだろう。
 フェーナが途方に暮れたその時。
「あんた……なにやってるの」
「え……げっ」
 声をかけてきた女性の声に振り向くと、フェーナは若干嫌そうな顔をした。せざるを得ない。
 なにせあの、自分を『痴漢』呼ばわりしたあのおさげの少女だったのだから。
「なによ」
「なに……っていうか。まあ、なにも」
「……ふん、困ってたみたいだから声かけてみれば、それ?」
「え」
「死になさいよ」
「えええ……」
 どうも読めない少女だ。しかしここにいたのならあのポケモンを見ていたかもしれない。
「あのさ、ポケモン見なかった?」
「そんなもんそこらじゅうにいるじゃない」
「いや、そうじゃなくて……あっちの方から、走ってきたポケモンいるかな?」
「いないわ」
「え」
「走ってきたポケモンなんていないわよ」
「そんなこと……」
「空でも飛んだんじゃない?」
「ああ、そっか……。ポケモンだもんね。よく見えなかったし、そうなのか……」
「?よく見えなかったって、あんた何探してたの」
「いやそれが、そこでカルネさんを突き飛ばしたポケモンがいて」
「カルネ……?」
 少女は顔をしかめる。そして吐き捨てた。
「いい気味だわ」
「そんな言い方しない方がいいよ」
「なんで」
「なんでって……」
「他に用がないなら行くわよ。……話しかけなきゃよかった」
 フェーナが応える前に、少女はすたすたと歩いて行った。
「とりあえず、カフェに戻るか……」
 酷く嫌な気分だった。あんなことを言われて気持ちいい人間もそういないと思うが。喫茶店への道を歩きながらフェーナは酷く疲れている自分に気づいたのだった。
 

【140401】