僕らの大都会闘争05
ミアレには空がないのだと言う。
そんな書き出しで文章を書いた少女はくしゃりと作文用紙を握り潰すと、ゴミ箱の中に捨てた。何処かで聞いた話をベースにしてみたが、どうにもしっくりこなかった。
『まだ書けないのかね』
締め切りが迫る中、編集長の声が頭に木霊する。
彼女はミアレ出版の系列の小会社にライターとして所属していた。しかし余り読者に彼女の文は評価されず、編集長の態度も冷たくなっていくばかりだった。
「違う、違うのよ……」
少女は頭をかきむしる。今回のテーマは『美しい街ミアレ』だった。それが彼女をとてもとても苦しめている。
「私はできるのよ……でも」
少女は苦しそうに言葉を絞り出した。
「こんな汚い街、美しい訳ないじゃない……っ」
「さーて、何するかね」
「まずは現場にもう一度行ってみようよ」
フェーナは二人を先導するようにカフェへ向かって歩き出す。
「なんのポケモンだったかは分からないんだってね……?」
「余りの早さに目が追いつかなかったんだ。多分……神速か高速移動を使ってたんだと思う」
「その技を使うポケモンってことか。それで、空を飛ぶんだよな?」
「それは……あの子が言ってて、俺が勝手に言ってるだけだけど」
「あの子?」
「なんでもない」
言葉がとげとげしくなってしまった。クールベに怒ったのではない。少女に言われた言葉を思い出してしまったのだ。
「せめて色とかわかればなー」
「……ピカチュウ、ヤヤコマ、アメタマ、ホルビー、ドードー、プラスル、マイナン」
ふと、ドラクロワが呟いた。
「高速移動、覚える……この辺りのポケモン。空飛べるの、ヤヤコマだけ……」
「ミアレ在住ならその線が濃いかもな。ミアレ在住だったらだけど」
「いや……簡単に捕まえられるポケモンが多いよ。もしかしたらそこら辺で捕まえて、その時だけ使ったのかも。……使い捨てとして」
「なるほど、足がつかないようにってことか。今はボックスが逃がしてる可能性がある訳だな。逃がしてたらもう追えないよな……」
そうなのだ。いきなり壁にぶち当たった。そもそもドラクロワが言ったポケモンを使ったという格証もない中で。
だがフェーナに諦める気はさらさらない。そんな生半可な覚悟で捜査を始めると言ったのではない。考えるんだ、考えろ。
そして彼の頭の中で何かが閃いた。
「でも、逃がす際はパソコンを経由する。ボックスに預けてても、逃がしてたとしてもパソコン履歴を調べれば確実に出てくる、よ。ヤヤコマをどうにかしてる人」
クールベとドラクロワは同時にぽん、と手を打った。
「あったまいい〜」
「カロスの管理者のクロケアさんはコボクに……いるらしいね……」
「よし、そこは俺が行く。お前らは引き続き捜査してくれ」
「えっ、いや俺とドラクロワもっ」
「それじゃテンポ悪いべ〜? 任せなって。ダテにお前らの面倒見てないんだから、やればできる奴らだっていうのも知ってるよ」
微笑んだクールベにフェーナは少し胸が熱くなった。アングルが煩いためそんなに話してはいなかったが、そんな温かい目で見守っていてくれてたんだ。
「じゃあ任せるよ。気をつけてね」
「ああ」
こうして、クールベが一旦離脱することになった。
「げ」
フェーナは柄にもなく嫌そうな顔をした。目の前にはあの三つ編み少女。着いたカフェ・ソレイユで紅茶を飲んでいた。
「あんたか……私のストーカーでもしてるの?気分悪い」
「……っ」
やっぱ嫌な奴だ、無視しよう。
「ドラ、一旦注文しにいこ」
「ちょっとあんた」
「……俺と話すのは時間の無駄なんじゃないですか」
意外にも少女の方から話しかけてくる。それを皮肉っぽく返すと少女が眉を寄せた。
「あんた、粘着質なのね、モテないでしょ」
「!!」
本当に失礼な女だ。確かにモテないけど!
「フェーナ、アメリカンでよかった?」
ドラクロワはドラクロワでマイペースに注文してきていた。
「あ、ありがとう、大丈夫だよ。……でも席がないなあ」
時間がお昼だったのがまずかったのだろう、テーブルには殆ど先着がいた。
「私のとこに座ればいいじゃない。三人席だから後二人座れるわよ」
「え」
「何よ」
「いや……」
意外と優しい……。
「はっきりしない男、気持ち悪い……」
前言撤回。そんなことなかった。
「君は本当失礼だなっ」
フェーナとこの少女は傍目にも見ても仲良くなれないタイプのようだ。
(見方を変えれば仲いいとも言えるけど……)
またもマイペースに、言い争う二人をそのままに三人席に座りながらドラクロワは思ったのだった。
「あんた達は何してるの」
「あんたじゃないですーフェーナですー」
「……ドラクロワ。君は……?」
「……。リラ」
「あれ、カロス圏?」
「何よ」
「いや髪の色が違うからカロスの人だと思わなかったんだよ。染めてんの?」
「うざい」
「なんだよいきなりっ」
また争いが起こる前にドラクロワが呟く。
「リラさんはこの街に来て長いの?」
「ま、まあ……それなりに。それで、あんた達は何をしてるの?」
「なんでもいいだろ……あ、リラさぁー、ヤヤコマを持ったトレーナーとか知らない?」
「そんなもんこの街の人間なら結構な数持ってるわよ。どんだけ人いると思ってんの」
「だよなぁ……」
やはりクールベに任せるしかないのだろうか。歯がゆいことこの上ない。
「でも、あのヤヤコマ連れてたのは一人だけね……」
「?」
「色違いのヤヤコマを持ってる女がいるのよ。最近ゲットしたとか騒いでたわ」
「最近……」
「そ、その子知り合いなの?」
「知ってるけど……知り合いではないわね」
「? 謎かけ?」
「あれよ、あの、いけすかない読者モデルのメイアよ」
【140428】