僕らの大都会闘争09


 結論として、メガチャームは戻ってきた。
 クールベに押し退けられた一瞬、プテラは咄嗟に技『どろぼう』を使っていた。いざという時の為にアングルが技マシンで覚えさせていたのだという。
 そしてそのアングルは。
「退院おめでとう」
「おう」
 かすっただけなので少し休んで日帰りできたフェーナと違い、アマルスの破壊光線を殆どまともに浴びてしまったアングルは一週間程入院していた。そして今日が退院日であった。
「……大変だったね」
「……おう」
 にこにこしているフェーナにアングルは気まずそうだったが、何かを決意するように目を閉じた後、言った。
「クールベがおかしいのは一年前から気づいてた」
「一年……?」
「事故で、妹を亡くしたんだ。それから、あいつの目が変わったのは気づいてた……。一年特に何もなかったが、とうとうやったか、と事件が起こった時分かった」
「ヤヤコマを渡した時?」
「勘だけど、殆ど確信には近かった。クールベは……用意周到に準備をしていたのかもしれない」
 それは納得だった。色違いのヤヤコマ、メガチャームの複製。一日三日でできるものではない。それに警察がクールベを国際指名手配したが、彼は未だに見つからない。きっと匿ってくれる人も見つけていたのだろう。
「でも、仕方のないことなんだよ」
 フェーナはぽつりと漏らす。そう、仕方ない。止められなかったのも、何故こんなことをしたのか聞けなかったのも、袂を分かってしまったのも。仕方のないことだ。
「そう、だな……」
「だから、俺はクールベを探すよ」
 目を見開いたアングルにフェーナは満面の笑みを浮かべた。
「クールベに直接聞く。何を思っていたのか、何が辛かったのか。全部聞くんだ」
「お前……」
「見て」
 ボールを手に取り、軽く床に投げて中から出てきたのは。
「……チゴラス」
「あんな一撃を受けたのに、殆ど無事だったんだよ。化石って凄いね。アングルがこれをくれたから、俺は諦めずに済んだんだ」
「……」
「この子と一緒だから、大丈夫だよ。カルネさんもお礼にって、キルリアと旅をしていいって言ってくれたし」
「フェーナ」
「やっと名前ちゃんと呼んでくれたね」
 アングルの顔が歪んだ。
「お前としたいこと、まだたくさんあったのに……」
「それはクールベとやろ?」
「……絶対帰ってこいよ?」
「必ず」
 アングルが手を差しだす。フェーナはがっしりと手を取り、二人は握手をした。それはきっと二人の約束であり、決意の瞬間であったのだろう。



「アングルってモデル続けるんだってさ」
「へぇ?」
「よかったね」
「なにが?」
「ところでなんで三つ編みにしなくなったの?」
 メイアはう、と詰まった。ドラクロワは少し笑っている。からかわれている気はしたが、嫌な気はしなかった。少し前のメイアなら噛みついていたことは本人が一番分かっていた。
「根暗っぽく見えるでしょ。もうウィッグつけることもないし」
「……本職のライター引退したんだって?」
「引退っていうか、休職かしら? あの社長はいてくれって泣いて頼んできたけど」
「ざまあって奴だね」
「否めないわね。お陰でモデルが本職になっちゃったわよ」
「いや……?」
「前よりは……嫌じゃ、ないわよ……。もうリラとかいう名前名乗らなくていいし、カラコンとか、化粧も余りしなくてよくなったし」
 あの後、メイアはメディアに引っ張りだこだったそうだ。細かいことは省くが、事件解決の後の報道の中でなんと黒髪の『リラ』だった方が受けがよかったのだという。そしてトントン拍子でプロデュースしたいという事務所が現れたのだという。
「フェーナは凄いわね」
「そうだね」
「あの時、あいつが私を……“メイア”を呼んだから……だから私は、メイアに戻れた、ような気がする」
「君は最初から……メイアだったんだよ……気づいてよかったね」
「ふん……」
 その時、病院から二人が出てきた。ベンチに座っていた二人は立ちあがる。
 みんな笑ってはいるが、四人から事件の傷が消えた訳でもない。事実メイアのヤヤコマの羽にはまだメガチャームの複製をくくりつけられていた時の傷がまだ癒えていない。
 それでも、皆きっと分かっている。
 諦めなければきっとそれは誰かの力になることを。何かを変えられることも。
 だから立ち止まらない。振り返らない。
 だから、
 こうして、彼らの闘いは静かに幕を閉じる。一抹の寂しさを残して。



fin

【140508】