消えない世界律03


「俺、ライオ先輩の後輩なんすよ」
「どおりで失礼だと思ったよ」
 どおりで、ね。
「リウトさんはライオ先輩のこと嫌いなんですかぁ〜?」
「ああ、嫌いだね。いつもすまして、お高く止まってる」
 笑いが漏れた。
 ライオがお高く止まっているだって?
「ふふっ」
「なんだよ!」
「ライオ先輩はつくづく見る目がないと思いまして」
「はぁ?」
「今俺があなたを傷つけたら、ライオ先輩はきっと傷つくのに」
「そんな訳」
「だから見る目ないって言ってんだろ」
 アリマの雰囲気が変わった。にやにやした表情から、真顔へ。纏う雰囲気も氷のように冷たい。
「俺が欲しいものもう持ってる癖に。ずるい、そんな人間にはお仕置きが必要だよなぁ?」
「ちょっとなに」
「ロゼリア。ねむりごな」
 どこからか飛んできた粉がリウトに降りかかる。途端、リウトの体はかくんと折れた。それを受け止め、くくっと笑う。
 建物の物陰からロゼリアが現れた。アリマの手持ちの一匹でもある。ロゼリアはそれでいいのか、という視線をアリマに投げるが、アリマはそれに気づかないふりをした。



「本当、メイスイに帰るのは久しぶりだな」
 ハクダンの森を抜けて、一人ごちる。数年ぶりの故郷は、特に変わっていなかった。前を忘れて変わったように見えるだけなのかはわからない。
「元気かな、リウト」
 そうは言ったが、会う気はなかった。リウトには嫌われている。
 きっかけは些細なことだった。
 ライオの相棒であるヤナップ。それはリウトのヒヤップっと同じポジションだった。
 まだタイプ相性を知らなかった時代。お遊びでバトルした際にヤナップのつるのムチはリウトのヒヤップを手ひどく傷つけてしまった。それ以来だ。リウトのライオを見る目に嫌悪が混ざるようになったのは。
 トレーナーとしても未熟だった。そして自分はリウトから離れた方がいいとトレーナーズスクールのジュニアコースに入れる年になるとすぐメイスイを出た。
 耐えられなかったのがある。リウトに辛く当たられるのが。だって、ライオは、同性ながら、リウトのことを、そういう意味で好きだったから。
「なーんて、馬鹿やってないで、覚悟決めるか」
 リウトには遅かれ早かれ出会うことになるだろう。ならばもう自分は逃げてばかりはいられない。思いは告げられなくても、友達に戻るならまだ望みはある筈だ。
「でもリウト君にはがっかりだよねー」
 そんな中、今頭に思い浮かべていた名前が耳に飛び込んできた。
「でもあの相手の男の子、アリマだっけ。なかなかよくなかった?」
「背も高いしねぇ。まだメイスイにいるかな?」
「でもリウト君と今話してるんじゃない?」
「終わったくらいに探してみようかー」
「おい!!」
 気がついたらライオは大声を出してその声の主である三人の女子に歩み寄っていた。



 冷たい。ここは何処だろう。リウトが目を開けると無機質なコンクリートの殺風景な部屋が目に入った。そこでリウトは自分が縛られていることと、絨毯も敷かれていない床に転がされているから体が冷たいことに気づいた。
 目の前には椅子が置いてあり、背もたれの方を前にした座り型で、背もたれに顎を引っかけたアリマがいる。とても楽しそうに、玩具を見るように。その表情でアリマは言葉を紡いだ。
「おはよう、オヒメサマ」
「お前……」
 アリマは椅子から立ち上がった。カツ、カツ、とブーツの底ががコンクリートの床を叩く。
「あんたさぁ」
「っだ」
 前髪を引っ張られて顔を近づけられる。
「なんでライオ先輩に好かれてんの? クズの癖に」
「す……?」
「ああ妬ましい妬ましい」
 ガリガリと頭を掻いて、なにかを思い出したようにアリマはにっこりと笑った。
「足一本くらいはいいよな? 出歩かれたら困るもんな?」
 刹那足に走る痛み。アリマが座っていた椅子を振り上げ、リウトの足に振り下ろしたのだ。鈍い音。
「あああああっ!!」
「うーるさっ」
 激痛に身悶えるリウトをさも滑稽そうに見て、アリマは言った。
「安心しな、殺しはしないから」
 その真顔の瞳の奥に隠れもしない狂気に、リウトは心底恐怖したのであった。


【170315】