ア・ピアチメント07
「とりあえず歩くかぁ」
「ぴ」
「ちゅー!」
「ヤトウ!!」
歩き始めたオスカーは、なにやら視線を感じることに気づいた。
「……?」
木の方でなにか動いた気がする。いや動いた。
「……人?」
「……っ!」
それは橙髪の少女だった。小柄で、気弱そうな印象を受ける。
「あの」
「……!」
少女はびくりとする。
「あ、俺は怪しいものじゃないぞ!?」
その言葉には必死にこくこくと頷く。
「あっあの! ヤトウモリ、ありがとうございました……」
ぺこりと頭を下げ、少女は走って行ってしまった。
「あっ、あんた! ヤトウモリのこと知ってたのか!? ていうかどうやって帰ったら……いねぇ」
木の陰には誰もいない。
「キュウコンに化かされたか……?」
こんこんと拳で頭を叩きつつげっそりとしていると、後ろでなにかが動いた。
「! ……ピチュー! ヤトウモリ! 離れるなよ」
イワンコのボールを出し、振り向き様に投げる。
「たいあたり!!」
イワンコが勢いよくぶつかったのは黒い大きなポケモンだった。心なしか甘い香りがする気がする。
「どくどくー!!」
「すなかけ!!」
イワンコの前足が砂をかきあげ黒いポケモンにかける。しかしそれが届く前に黒いポケモンは跳躍した。イワンコに指示を与えるより相手の方が速かった。
ずどん、と大きな音がした。
「ワン……」
「イワンコ!」
きゅう、と気絶するイワンコの前で黒いポケモンは威嚇を続ける。
「くそっ!!」
「ピチュ……」
ピチューの一匹の身震いを感じ、オスカーはふっと笑う。怖い。怖くても、ピチューに不安を与える訳にはいかない。
「大丈夫だ、俺が守ってやるからな」
「ピ……」
「絶対、絶対だ」
どうしたらいいのかなんてわからない。イワンコをボールに戻し、オスカーは黒いポケモンに向き直る。
「ヤトウ」
ヤトウモリが察したのかオスカーに寄り添う。
「一緒に戦ってくれるのか……ありがとう」
ヤトウモリがぐっと指を立てた。
「仕切り直しだ! ヤトウモリ、はじけるほのお!!」
「トウーッ!!」
ヤトウモリが吐き出した炎が辺りに飛び散る。黒いポケモンがそれを手で振り払う。隙ができた!
「まだまだ!! どくガス!!」
先ほど確認したヤトウモリの特性は『ふしょく』。毒タイプや鋼タイプにも毒が通るという。相手のポケモンのタイプは確認できていなくいが、確実に毒は与えられる。
「耐久戦だ! 逃げまわれ!」
ヤトウモリは縦横無尽に大地を駆け抜ける。それを追う黒いポケモン。恐らく、一撃入れられたら……。
オスカーは息を整える。大丈夫だ。信じろ。さっき出会ったばかりのヤトウモリは自分を信じてくれた。不意にヤトウモリがなにかにつまずいた。黒いポケモンが迫る。
「!」
考えろ。数秒で乗り切る術を考えろ。
「ヤトウモリ!! 前に転がれ!」
「トウッ!!」
言われた通りヤトウモリが転がると、地面の段差でヤトウモリがこけた。高低差がずれたことで、黒いポケモンの腕の一振りが外れた。
次は避けられない。ああ、どうか。
「……」
「……あ?」
ずしん、と黒いポケモンの体が地面に倒れた。
「毒……はは、状態異常は大事だって、スクールでも習ったっけな」
気が抜けて、オスカーは転がり込む。負けるかと思った。怖かった。
「ヤトウ!」
「おっと、ヤトウモリ、ありがとうな」
「トウ!」
飛びついたところで頬を撫でられて、ヤトウモリが満足そうな声を出した。
「なんだこれは!?」
「オスカー!!」
上から聞こえた声に、見上げると褐色の肌の青年とソーガが崖の上から自分を見下ろしているところだった。
「なるほど、テリトリーを侵されたと思ったのでしょう。さっきのはぬしポケモンです」
褐色の肌の青年はここのキャプテンであるらしい。名をカキを名乗った。
「マジで……」
「因みにエンニュートといいます。オスカー! 君は島巡りのしきたりに従って、ほのおZを受け取ることができますが……どうしますか」
「へ? どうするって……」
「ほのおZを受け取りますか?」
「そんなん……」
もらってどうする。どうせ島巡りは完遂できない。
「ヤトウ……」
ヤトウモリがペタ、ペタとオスカーの足を触った。
「……んーっ! そうだよな。お前が頑張って勝ったんだもんな。カキ、受け取るよ」
「では」
あまりにも簡単に、赤いクリスタルはオスカーの手に収まった。
「……よかった」
「おわっ!!」
後ろの木の陰から誰かが声をかけてきた。
「だ、誰っあ、さっきの」
あの消えてしまった少女だった。カキがあっと声を上げる。
「クレハ! どこいってたんだ!」
「……試練達成、おめでとう……ございます」
「ああ……ありがとう……」
この二人は知り合いだったらしい。
「これからも……頑張って……ください……」
「あ、ああ」
そこでオスカーははたと気づいた。
「どうしたの、オスカー」
「ソーガ、カキ、クレハ。俺さ……」
間。
「Zリング、家に置いてきてるわ」
【170924】
くれさん宅クレハさんお借りしました。