ア・ピアチメント10
「へぇ、ソーガ君とオボロさんは同郷の出身なんですね」
「まぁな」
「うん」
ポケモンが回復されるのを待っている間、ロビーに腰掛け四人は話していた。
「それでオスカー君は島巡り再出発なんですね。おめでとうございます!」
アリマの素直な祝福にオスカーはにっと笑う。結構悪い顔だ。
「親父にバレたらまた邪魔されそうだけど後一年くらいホウエンで仕事してるからな」
「レンジャー、大変ですねぇ」
「オスカーは跡を継ぐつもりなの?」
「よくわかんね、やりてぇこともなかったし。今は島巡りやりてぇけど。それが終わったらなにが残るんだろうな」
「きっとやり遂げたらわかりますよ」
「サンキュ、アリマさん」
「ということは、オスカー。お前はシェードジャングルの試練をやるのか?」
「そのつもりだけど……」
「では、私たちとはここでお別れだな」
「!?」
「オボロ様!?」
「アーカラの試練の地は回った。次はウラウラだからな」
「そんな……」
「元々私を見つけるまでという計画だったのだろう。そっちはそっちで励むといい」
「オボロさ」
「いやだ」
ソーガを遮りオスカーはきっぱりと言った。
「子供か。聞き分けてくれ。私は余計な時間は使いたくないんだ」
「いやだね。お前らが隠してることもわかんないし」
「隠している? なんのことだ?」
「ぬしポケモンを従えたって聞いたぜ。ソーガもそういうところはあった。あんたたち、なんかそういうの持ってるんだろう?」
「要領を得ないな。はっきり言ってくれ」
「親父から聞いたことがある。守り神に祝福されない閉鎖された島」
オボロが目を見開いた。
「ポケモンが勝手に懐いたり、気持ちがわかったりするらしい。ソーガにもそういうとこがあった」
オスカーはすぅ、と息を吸う。
「お前らエハ島の出身じゃないか?」
時間が止まったように感じられた。随分経って、オボロは口を開く。
「エハ島のカナロナ村。それが私とソーガの出身だ。お前の言う通り守り神に祝福されていない。よって島巡りが許されない」
「……」
ソーガは俯いてしまう。オボロと会ってから顔がずっと曇っている気がしたが、オスカーはどう声をかければいいのかわからなかった。よってそのままオボロと問答する。
「だから、新しい制度が欲しいのか」
「なにも自分のためだけにやっているのではない。村がこのまま閉鎖を続けても得るものがないと思っているだけだ。私は村長の娘だ。皆を導く義務がある」
「へぇ、高尚な」
「なに?」
「……俺」
少し雰囲気がピリリとしたときにソーガが発言する。手は膝の上でぎゅっと握られている。
「オスカーの島巡り、見届けたいです」
驚いた顔をしたオボロにソーガは続ける。
「あなたに意見する権利がないのはわかってます。でも」
「もういい、もういい。わかった」
オボロはソーガを遮ったが、その顔は穏やかなものだった。
「お前に取ってオスカーはただの同行者じゃなかったようだな」
「はい……」
ここでポケモンの回復を知らせるアナウンスがかかり、オスカーとソーガの名前が呼ばれた。
「ちょっと出てくるわ。行くぜソーガ」
「あ、うん!」
連れだって去っていく二人の後ろ姿を見ながらオボロは呟いた。
「ソーガは自分の意志を持ち始めているんだな……」
「オスカー君があれですからねぇ」
「だとしたら、私はオスカーに感謝しなければいけない」
「オスカー君はそんなこと求めてないと思いますけど。バカがつくくら正直でまっすぐな子だって、あのバトル見ればわかりますから。ね」
アリマがボールを取り出す。
「ムウマージか」
ちら、とボールを見て言ったオボロにアリマは笑う。
「アローラで初めて捕まえたポケモンです。……俺もオスカーみたくあれたらどんなによかったか」
「む?」
「い、いやなんでもないですよ!? 僕もオスカー君見習わなきゃなーっていうね! あ、ほら戻ってきましたよ! あれ?」
なにやら黄色いポケモンが二人より先に走ってくる。二匹いるピチューの一匹だ。
「……なんだ」
ピチューはオボロの前に来た後、なんと傅く形を取った。小さな体からはとても連想されないポーズだ。
「……私と契約したいのか」
「ピ」
そこでオスカーとソーガが到着し、不思議そうにピチューを見るオスカーだったが、ぽんと手を打った。
「なんだお前、オボロがいいのか」
「ピチュ……」
それにはピチューは申し訳なさそうにピチューを見る。
「いいと思ったなら行けよ。……寂しくはあるけどよ。ほら、オボロ、ボール」
オスカーにボールを渡されオボロは神妙な顔をする。
「別れはつらくないのか」
「んな訳ねぇじゃん。でも一緒にいたいって奴は止められねぇよ。当分は俺たち、一緒にいるみたいだしな。さっきの話の感じだとそれでいいんだよな?」
「……ああ」
ソーガはそっと呟いた。
「オスカーはまぶしいなぁ……太陽みたいだ」
「太陽? ないない」
苦笑して否定するオスカーにソーガは首を振る。
「太陽だよ。オスカーは本当にすごいなぁ……」
「あ、あんまり褒めるなよ」
「照れているのか」
「ばっ、照れてねーよ!」
「……俺もそうだったらよかったなぁ」
その囁くような一言を聞いたのはアリマだけだった。
「じゃあ、僕は行きますんで。まだ見ぬジガルデ・セルが待っている!」
傍らにロズレイドとムウマージを従えたアリマは手を振る。
「頑張ってなー」
「また会えるといいですね」
「そうですね、……ソーガ君」
アリマはソーガに耳打ちした。
「……!」
「じゃあ! ボン・ヴォヤージュ!!」
去っていくアリマの後ろ姿とソーガをオスカーは交互に見た。
「アリマさんはなんて?」
「それ言ったら内緒話の意味ないじゃない……」
「確かに。よーし、シェードジャングル行くか。オボロ、今度はぬしポケモン懐かせるなよ!」
「返り討ちにならないといいがな」
「言うじゃん!」
オスカーとオボロはもう打ち解けているように見えた。ソーガはそれを見ながらそっと目をつぶって言った。
「形だけです……アリマさん」
『俺は君をとてもやさしい子だと思っているよ』
【171001】