blue valet05
『その子は懐いているようですね。連れて行ってやってくれください」
「って言ってもなぁ」
サファリの店員に言われた言葉を反芻し、サクレンはため息をつく。
おくりび山に行く際にはサファリを通る。その際に店員に発見され、聞いた話によると、どうやらこのカゲボウズは元々迷子になりたどり着いた先のサファリでお世話になったらしい。そしてまた迷子になって街にきたという訳だ。
「迷子の天才かお前は」
「ずっ!」
「俺なんか、なんで選ぶんだろうな」
視線を合わせて、じ、と見つめるとカゲボウズは満面の笑みを浮かべてすり寄ってきた。
「……」
「ズゥ……?」
「そうか、俺たちは似てるのか」
迷ってばっかり。
思わずらしくない思考に噴き出すと、カゲボウズの頭を撫でた。
その時だった。
「サクレン……」
彼女の声が聞こえたのは。
振り返ることはしなかった。頭の中が冷水を被ったようになり思考が止まる。
しかし、体は動いて、彼は走り出した。
「待てっ! お前に話が!」
俺はないよ、会いたくなかった。
「グラエナッ!!」
「ッ!!」
後ろから体当たりの衝撃を感じ、無様に道路に転がった。
痛みに蹲っていると、彼女の声が上から聞こえて。
「久しぶりだな」
「……そうだね」
見上げても、太陽が真上にあるため逆光で表情はわからない。ただ、海色のスカートがはためいていた。
「スカート、履くんだ」
「お前もそれか」
「も?」
「いや……、今からお前を連行する」
「そうなるよねぇ。まさか、ばれるとは思わなかった」
「偶然だ、本当に」
それって俺の運が悪すぎるのでは。
思わず笑ってしまったその時だった。
ルシナの体がなにか吹っ飛ばされた。
「ああ、もう許さない、許せない、殺してやる」
「イッテツ」
「ありえないですよ、女性の顔に傷をつけるなんて」
「そうだよー! さいってー!」
「ああ……うん」
場所はミナモシティ内にある民宿。それぞれの言葉で怒りを表現する叔父と姪に、ルシナは曖昧な態度で返した。
ベルベットが出た美しさ部門のコンテスト。その休憩時間に外に出た際に起こったのがあの一連の出来事だった。ポケモンに体当たりされたのだろう、しかも、ルシナのグラエナの時のように手加減していない。結果が足首の捻挫と頬の擦過傷を負うことになった。
体当たりしたポケモンは、あの、ペリッパーだった。レキ、といった筈だ。
「サクレンは命令した訳じゃない、私があいつを先に転ばしたから」
「なんであんたが肩を持つんだよ」
イッテツはさっきから尋常ではなく怒っていたのを感じられる。倒れているルシナを見つけてから、大騒ぎするものだから、ベルベットも大会の途中で棄権してしまった。それはかなり申し訳ない。ベルベット曰く『どんなに夢でも友達をほっといてまで妄信してられない、だから気にしないで』と言ってくれたのだが、やはり申し訳ないことに変わりはない。
「しかし……」
もう、この街にはいないのだろうか。
「とにかく、安静にしといてくださいね!」
ひとしきり怒り終えたらしいイッテツが宿を出て行った。出て行ったというより、駆けだしたという感じで、声をかける間もなかった。
「なんだあいつは」
「……ねぇ」
「どうした」
次に声をかけてきたベルベットは、やや口ごもりながら、言った。
「本当に……イッテツくんのこと、好きなの?」
ああ、そうだよな。
「君がああ言ったから、付き合うことになったのは確かだ」
「やっぱり」
「でも、嫌いではない……少したりとも心を許していなければ、そうとすら思えない」
「ほんとに?」
「なにが言いたい?」
「サクレンっていう人のこと……好きなんじゃないかと思って……」
「な……」
「だって、まるで恋してるみたく気にしてるんだもん……」
ベルベットはうー、とかあー、とか唸っている。自分の発言が大きくことを動かしてしまってことを気にしているようだ。
「そんな風に、見えたか」
「見えるよ……イッテツくんがノって提案したんだろうし、悪いと思うから、フるんならフっちゃっていいからさぁ」
随分な言われようだ。思わず苦笑。
「……そんな風に見たことがないから、サクレンが好きかどうかは答えかねるな……そんな不確定要素ではイッテツもいやだろう」
「じゃあ、会いに行こうよ、場所、多分あそこだから」
「……は?」
「なんかよくわからない……マグマ団だっけな? そいつらが……」
ベルベットがそう言い終わるのと同時だった。
ほのぼのとした日常番組が流れていたテレビに緊急ニュースが入った。
『大変ですっ!!こちらカイナシティ、クスノキ館長の完成した潜水艇が、マグマ団なるものに盗まれましたっ!!』
続いて、盗まれた瞬間と思われる瞬間の映像が流れる。
そこにちらりと映っていた影、薄い蒼。
「今すぐマグマ団のところに案内してくれ!!」
紛れもなくサクレンだった。
【160702】