ア・ピアチメント14


「アローラ!」
「…………」
 笑顔で挨拶してくるヘンリーを睨み返すとオスカーは無視して横を通ろうとする。居住区を出たらこれからの算段をしなければいけない。
「言っとくけど僕は知ってたけどあそこまでするとは思ってなかったからねぇ。代表の根性に感嘆、するって感じ」
 無視だ無視。
「それ言ったらあの子もだよね。なかなか身一つでウルトラホール飛び越めないよ。ソーガ君、だったかな」
 限界だった。
「それ以上喋るな」
 ヘンリーの胸倉を掴んで壁に押し付ける。こちらの方が父親にしごかれて鍛えているんだ。逃げたお前とは違う。
「っ……。乱暴」
「そりゃどーも。次ソーガのこと言ったら口を縫う」
「じゃあ話変えるけどドロシー来てたよ」
「……は?」
 家出した三男もここにいたのか?
「スカル団になってた」
「マジでかよ……」
「金色の髪のイケメンに一喝されてしょげてどっか行ったけど」
 アリマだ。彼は人を怒ることもできる大人なのだろう。



「俺は今回のことの後始末がある」
 グラジオは開口一番そう言った。
「幸い人数は足りている。リーリエ、リオ、アリマはポニの祭壇に、オスカー、オボロは」
「待ちなよ」
 皆で打ち合わせをしているとき、入ってきたのは。
「ドロシー! お前、本当にエーテルに来てたのか!」
「本当に? ってなに? どーせヘンリー兄に聞いたんでしょ。嫌ってる癖に話は鵜呑みにするんだね、オスカー兄」
「え、オスカー兄……?」
 アリマが呟く。
「ああ、実の兄弟だもの」
「似てねー!!」
「うっさいよ金髪。偉そうに僕に演説したの、忘れてないからね」
「え、アリマさんそんなことしたん」
「申し訳ございません」
「で、考えた結果君たちの駒になってやろうと思っただけ」
「協力してくれんのか……」
「オスカー兄、昔から意地悪だったからやり返すチャンスだし」
「ちょ!」
「いろんな兄弟の形があるのですね、兄様……」
「そのようだな」
 アリマがそこでちょいちょいとオスカーの服を引っ張った。
「なんすか」
「リーリエって可愛くない? イメチェン前もよかった……」
「そっすね」
 この男、本当にドロシーを叱ってくれたのだろうか。
「流すなよ!」
 パン! と仕切り直すようにグラジオが手を叩いた。では、オスカー、オボロ、ドロシーにはウラウラに向ってもらう。
「何故だ?」
「メレメレの花畑の奥に古い遺跡があるようだ。コスモッグはリーリエに同行するがお前たちはなにかあり次第渡した端末で通達してくれ」
「ああ」
「わかった」
「うん」
 三人が頷いたのを確認してグラジオは再度手を打った。
「作戦開始だ!」



「ちょっと迷惑ヤロー」
「俺オスカーって名前なんですけど」
 去り際、リオに声をかけられた。
「なにもできなかったあたしを笑いなさいよ。負けたあたしを」
「なんでだよ」
「え?」
「負けるから強くなるんだろ? お前すげーつえーしきっと守れるようになるよ」
 リオがみるみる内に真っ赤になったキッとターンして叫ぶ。
「やっぱあんた嫌い!!」
「耳まで真っ赤だぞ」
「嫌いよ!!」
 リオはそのまま振り返らず行ってしまった。勝ちに固執する性格が多少和らげがいいのだが。



 船の中でぼーっと出発を待っていると隣にオボロが座った。
「疲れているな。サイコソーダ飲むか」
「ん」
 缶を受け取り、開けながら、オスカーは何気なくオボロに話しかける。
「そういやさー」
「ん」
「大試練終わった後にお前のピチューの声がしたんだよ、な……」
 オボロの方を見ると固まっている。
「オボ」
「そうか! その手があった!」
「ちょっと、うるさくしないでよ」
 アイマスクをして寝ていたらしいドロシーが文句を言う。
「その手ってなに」
「我々カナロナの民は手持ちポケモンの中でも特別に“従者”と呼ばれる存在を得る。私にとってピチューがそうだったんだ」
「はあ。なんかピンとこないんだけど」
「ピチューの声がお前に届いたのは従者の効果だ」
「まあ多少わかりやすくなったわ」
「普通の人間に声が届くことは少ないのだが……それだけピチューが頑張ってくれたのだろうな」
「お前だって頑張っただろ」
 オボロは一瞬目を見開くがふ、とほほ笑んだ。
「そしてソーガ、にはカリキリが従者としてついている。ウルトラホールの中で有効かはわからないが従者の力が生きていれば私の力である程度の場所の目星はつく」
「マジかよ!」
「うっさいって!!」
 正直ドロシーの方がうるさい。オスカーは小声でオボロに言う。
「それ今わかんねぇの」
「私が忘れていたくらいだからな……近くにいたときはむしろ存在を感じ合うのが普通だった」
「普通過ぎて気づかなかったって感じか……」
 ここで船が出航する汽笛が鳴った。
「まあ」
「移動しながら考えるか」
「な」
「なんかお気楽だなぁ……」
 ドロシーがぼやいた。



「この湖際さ、言うか迷ったけど本当になにもないよ。近くにスカル団の町あるから何回もサボりにきたもん」
 メレメレの花畑から行けるそこは確かになにもないように見えた。
「お前はなんでスカル団入ったんだよ」
「それ今聞く!?」
「いつ聞いたって一緒だろ」
「はぁ〜っ、あんたの嫌いなところそういうところだよ!! 小さい子供が! 家出して! 全うな感じでいられる訳ないでしょ!」
「それもそうだな」
「全く」
「じゃあ全てが終わったら俺と島巡りしようぜ」
「え……」
「親父が一年帰ってこない今がチャンスだぞ〜」
 ドロシーはオスカーと、オスカーが右腕にはめているZリングを交互に見る。そして俯いた。
「だからあんた嫌いなんだよ」
「俺は傲慢で自分勝手らしいからな」
「……」
「もうちょっと調べたら、アリマさんに連絡入れっぞー」
「調べるには値しませんよ」
「!」
 いつの間にか背の高い白髪の髪の男が瓦礫の奥の方に立っていた。
「誰だ。てめっ」
「アローラ。……名前はタランテラですが」
「名前じゃねーよ! なんの用だ」
 ふふふ、と男は人差し指を唇に寄せる。
「私、不思議な力を持っていまして、ウルトラホールを開けるんですよ。あなたたちの友人の元に送り届けることもできるかもしれません」
「なんだって!?」
 オボロが色めきだったオスカーを手で制す。ドロシーも彼の右手を掴んだ。
「あ、怪しさMAXなのは俺もわかるよ。でもなんか状況知ってる感じじゃん……」
「「尚更怪しいんだろ(でしょ)!!」」
 タランテラはニコニコしながら見ていたが、呟く。
「まああなたたちの答えはどうだっていいんですけどね」
 言うや否や空間に穴が開く。オスカーとドロシーは初めて見るがオボロは見覚えがあった。あのルザミーネが開いた……。
「まさか、お前本当に……!?」
「人のいうことは信用するものですよー」
「うわっ」
「ちょ、吸い込まれっ」
「き、貴様何者だっ」
「はいはい、いってらっしゃーい」
 ウルトラホールに吸い込まれていく三人を笑顔で見送るとタランテラはホールを閉じた。
「……そのまま閉じ込めるの」
「まさか、終わったら出してあげますよ」
「絶望が?」
「あなたは勘違いしているようですね、ジルコニア。絶望には終わりがないのですよ」
 奥から出てきたオッドアイの黒髪の男はふーん、と何気なく呟いた。
「君も千年前までくらいはいっぱい絶望してくれて楽しかったのにねぇ、ジルコニア」
「AZがいたじゃん」
「彼は救われてしまったでしょう?」
「思えばあんたと連絡取り合う意味もうないよね」
「あのレンゴクといういしやがいいんですか」
「なんでいしやだけ覚えてるんだよ。うん、でもまあ、あいつも下種だけどあんたよりはわかりやすくていいね。人の更なる絶望のために人を助けたりしないし」
「さて、なんのことでしょう?」
 タランテラはまた、ほほ笑んだ。


【161012】