フライアウェイ・シンドローム07
「うわわわ、オレ船なんて初めてですよ〜!」
「俺もだ」
「その割には落ち着いてないっすか?」
「これでもノリノリなんだがな」
「あはぁ! 昔からシノさんは感情出にくかったですもんね〜!」
アーカラからメレメレへの連絡船を乗りながら二人はそんな会話がした。なにかが足りない気がしたし、そのなにかははっきりしていた。
「……ハック」
お前は今、どこにいるんだ?
「ほう! トレーナーに、ですか! そういうことなら歓迎しますぞ!」
しまキングのハラは思った以上にフレンドリーな人物であった。
「出てきなされ! モクロー、ニャビー、アシマリ!」
三匹のポケモンがボールから出てくる。
「折角だから、シノ、でしたかな? 君も選びなさい」
「え」
「なになに、遠慮せず! この子たちも出会いを待っていますから!」
「オレ、これにします! モクロー! もふもふしてて可愛い!」
モクローを抱きしめて嬉しそうにするフリーにモクローももふぅ、と喜んでいる。
「じゃあ、俺は……アシマリ」
正直、自分はよくてもアシマリはいいのか、と思ってします。ざらめの時に思った感情が、そのまま流れ出してきた。
「しゃま……」
アシマリは暫くシノを見ていたが、数秒後飛びついてきた。
「いってぇ!」
「痛い抱擁すねー!!」
「おまっ、他人事だと思って……」
そういう自分の顔もどうしようもなく笑ってしまう。選ばれることはやはり嬉しい。
「この感じならハックさんはニャビーですかね?」
「おや? もう一人いるのですかな?」
シノはハラに事情を告げる。ポケモンを貰いに来た理由を。まあ自分は貰う気はなかったのだが。出会いの喜びを知ってしまってからはフリーが羨ましくもあったのでそこはとても嬉しい、という感じだ。絶対言わないが。
「正直、ポケモンを頂いて思いましたが、俺は今持ってるポケモンのこともこのアシマリのこともなにも知らない。これからの旅で知っていけたらなって思います」
「知りたいならバトルですな! シノ! フリー! さっきのポケモンでバトルしてみなさい!」
「え、シノさんに勝つなんて無理ですよ!」
「相性的には俺が不利だぞ」
「戦います」
「現金過ぎないかお前」
「へへ」
フリーは頭を掻いた。シノも笑った。
「それでは、ポケモンバトル、はじめませいっ!!」
「モクロー、このは!」
「なきごえで攻撃力を下げろ! アシマリ」
「モク―ッ」
「あしゃーっ」
バトルを始めた二人をハラが審判として見ていると一人の少女が寄ってきた。
「あら、バトルかしら?」
日傘を差したアローラでは熱そうな服を着た少女だ。
「そうですな。君は」
「アコです。私もポケモントレーナーですの。バトルをするのも見るのも好きですわ」
「そうですか、それはそれは」
バトルは終盤と言った感じでモクローがアシマリのみずでっぽうを受けている。
「ここから、変わる」
「?」
「世界線はUの世界へ。誰も知らないアローラ」
アコはにこりと笑って去って行った。
ハラは不思議そうにしたが審判に戻る。
「このは!」
「避けろ! はたく!」
素早くモクローのこのはを避けたアシマリの平手打ちがばちーん!と決まった。モクローは地面に落ちた。
「勝負あり! シノの勝ちですな!」
「うわぁーやっぱつえー……シノさん」
「ありがとな、フリー。アシマリも」
「しゃま!」
「ん、お前メスなのか」
持ち上げて気づいたところでシノは少し考える。
「よし、お前の名前はルルだ」
「しゃま!」
「モクロー、ごめんね! すぐポケセン連れてってあげるからね」
モクローは気にするな、というようにフリーの髪をはんだ。
「二人ともいい具合に絆が深まったようですな! 今度ハックという方と一緒にニャビーを貰いに来てくだされ」
「はい!」
「ありがとうございます」
「しかしさっきのアコという女性は……」
「?」
「ああ、いえ、なんでもありません。君たちの未来が幸多からんことを願っていますぞ! いつかこのハラともバトルしてくだされ!」
「はい」
「はーい」
「じゃあ、留守は任せた。待っててくれよな」
「モクロー弟たちに玩具にされそうだなぁ……」
モクローが目を白黒させたので二人で笑った。
「シノさん」
「ん」
「俺、学校もちゃんと行くんで! シノさんも帰ったら行かないとだめですよ! ハックさんもですよ!!」
まっすぐな目。ああ、その目に何度も救われたんだ。
「ああ。お前は高校だけどな」
「あーっ! 一緒に行けない!!」
「気づいてないのかよ」
「とにかく!! 絶対ですよ!」
「ああ、わかった、約束する」
シノは踵を返し、歩き出す。振り返らない。恋しくなってしまうから。
こうして、シノの旅は始まった。
『世界線はUの世界へ』
少女がずっと遠くでそう呟いたのを知ることもなく。
【171106】