何事にも始まりありけり。
「アローラからのお越しですね! ではこちらに戸籍謄本のコピーを!」
「はい……。あの」
「?」
「あまり、見ないで頂けますか」
「はい!」
受付の青髪の女性はそう言って明後日の方向を向いた。何故か聞かないでくれるのは大変ありがたい。視線も逸らしてくれている。ゆくゆくはこの悪癖もなくしていかなくてはいけないのだが。
「トラオムには滞在ですか? 移住ですか?」
「滞在です」
「でしたら三か月が最長になります! これを過ぎると戸籍がトラオムに移されてしまうので手続きが面倒になるので気をつけてくださいね!」
「……はい」
「そして滞在中は我らがトレーナーズユニオンに仮登録してもらう形になります。そうすることでチリンシティの装置と連動してコウスケ様も夢道の利用が可能になります!」
「はい」
「にしても、結構点々としてらっしゃいますね。カントーから始まり……ふふ、カントーかぁ」
「なにか?」
女性はちら、とコウスケを見やり先の言葉を思い出したのが慌てて目を逸らす。
「……すんません、なんか」
「いえいえこちらこそ。私もカントー出身なので懐かしくなっちゃいました!」
「へぇ……帰りたく、なったりは」
「トラオムもいいところですけど、やっぱりカントーと全然違いますから」
「ですよね……」
とは言ったものの、カントーがどんなところなのかはよく知らない。自分と双子の姉は三歳までヤマブキシティにいたらしい。そんな年齢の時のこと覚えいるはずはない。
「ではこちらが最後です。手持ちのポケモンを私に見せてください」
頷き、ボールを出す。中から青緑色の鳥ポケモンと黄色いネズミのポケモンが出てくる。
「はい! 色違いのモクローちゃんとデデンネちゃんですね! NNはありますか?」
「モクローがトウラで、デデンネがエレネ……です」
「はい、そして性別はオスとメス……はい! 登録はこれで終わりです! トラオムでユニオンに登録している方で★モクローを連れている方は36人いますよ! 色違いトークとかできたらいいですね!」
「ぱっと出てくるんですか……あと。視線。もう大丈夫です」
「わかりました! 私は最高の受付嬢ですから!」
まっすぐにコウスケを見て、女性は笑った。どことなく姉を思わせる笑顔だと思った。いつだって心から笑うんだ。
「なにしよ……」
ユニオンを出て、噴水でぼうっとしているといろんな人が通る。世界にはいろんな人がいるのに。
「あの子はもういないんだな……」
「モク」
傍らのトウラが慰めるように羽根でコウスケの腕を抱いたが、服に羽毛がついたことに気づいて慌てた。エレネは噴水の水に映る自分とにらみ合っている。
「いいよ。別に……お前のはもう気にならないから」
「もふぅ……」
トウラは嬉しそうによりすりつく。こんな優しい気持ちになる日がくるなんて思わなかった。少なくとも十年前は。
「とりあえず、このおすすめのスタンプラリーっていうのやってみるかぁ」
「モク!」
「デネッ」
「えーとこのカランタウンのスタンプある場所は……マクスウェル研究所。あちこち動くトラオムにも博士いんのか……」
「もふぅ」
「デデ!」
早く行こうと飛び跳ねる二体をボールに戻し、コウスケは姉の言葉を思い出す。
『コウスケなら大丈夫だよ』
不安が少し消えた。魔法の言葉だと思った。
「……行こう」
自分の物語は、旅はまだ始まったばかりなのだ。
【171005】
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