LosTime Maker!

シュメルツとフィル

   揺らぐ輪郭

 くるり、くるり、と包帯を巻き付けるたび、目の前の彼が穏やかに、あどけなく笑うので、俺はなんだかソワソワとしてしまった。

「……痛くないの」
「いえ、ちっとも」
「そう」

 きゅ、と少しだけ圧迫するように力を込めて、サージカルテープで止めてやる。軽く腕を動かした彼が、婚しそうにそっと微笑んだ。

「ありがとうございます、シュメルツ」
「どういたしまして」

 医療道具を片付けながら、俺は彼の様子を伺う。
 仕事に差し支えないかチェックをしているのか、上下に左右にと腕をくるくる動かしていた。それから、そっと包帯を撫でて。俺を見て、ことんと小さく首を傾げる。

「明日には、包帯が取れます」
「本当?」
「はい。あんたが優しいので」

 よく分からない返しをされて、思わず苦笑い。
 返す言葉に迷って、俺は「ごめんね」と謝った。ほんの少しだけ首を傾げた彼が、ぱちり。ゆっくりと隣きをする。

「きみの痛みを、わかってあげられなくて。ごめん」

 彼の症状——厳密には違うのだが、便宜上、症状と呼ぶ——は、怪我や病気とは一線を画していた。痛みではない、もっと別の何かが、彼を構成する骨組みを崩している。
 だから、俺にはどうしようもなかった。
 できることはただひとつ、包帯を巻いてあげることだけ。

「……」

 彼が、真っ直ぐ俺を見ている。凪いだ海のような、ただひたすらに静かなそれが、波打ち際のように柔く揺らんだ。

「痛みなんて分けても、どっちも痛いだけです」
「——」
「ありがとうございました。何かあったら、また来ます」

 彼は俺にそっと近寄ると、アメリカ式だろう、軽くハグをしたあと、頬を軽く擦り付けるような挨拶をして、医務室から出て行った。
 ドアが閉じれば、一気に静寂が押し寄せる。
 俺は思わず、ストンとスツールに腰を落とした。それから、身体の節々がキシキシと軋むのを堪えるように、身体を屈めてギュッと肩を抱き締めた。
 痛みで、痛みを、上書きするように。

「だって——痛いのは、みんな嫌でしょ……?」


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投稿日:2025/05/27
最終更新日:2025/05/27

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