創作小話
本部記録 上屋敷湊

「あ」
 無遠慮に声を出してしまってから、上屋敷・湊・サージェントは『やってしまったな』と。
「どうも、Mr. 上屋敷」
 目の前の男は、何でもないように笑った。くすんだ縹色のような髪と一緒に、鮮やかな簪がシャラリと冷たい音を立てる。その筋肉質な体躯には、少し不釣り合いに思う。
「いやそんな、かしこまんなくても……。ていうか、なんか用すか?」
 こちらが声を出しておいて、酷い言い草だ。湊は思ったが、この得も言われぬ違和感・・・・・・・・・を覚えている間は――とも。
「んー特には? 俺もご飯食べに来ただけだし。よければ一緒に食う?」
「いっすよ」快諾して、メニュー表を確認する。「今日の日替わりなんだろ」
「コロッケか、鰆の西京焼き」
 するりと隣から回答が返ってきて、湊は驚きつつも会話を続けた。
「うわ迷う。……てかそれ和食日替わりか……中華はわかります?」
「麻婆豆腐か油淋鶏だったかな」
「なーるほど、決めました。花灘サンはどうするんすか?」
 尋ねれば、彼は首を傾げた。
「俺はもうちょっと考えるわ。あっちの席、取ってあるんでヨロシク。27番」
「はーい」
 花灘から離れた湊が、ポリポリと首筋をかきながら列に並ぶ。
「やっぱあの人……そうだよなぁ……」
 気付いたからといってどうと言うわけでもないが——彼、花灘レイが喋る共通語は、アメリカ英語に近い発音の訛りがある。違和感の正体はこれだ。日本人だろうにもかかわらず、話す共通言語が引っかかりなく耳に入ってきたから、それが違和感として湊の印象に残ったのだろう。
 割と整った発音だったため、綺麗な英語を学べる環境にいたことがあったのだろう、と湊は推測する。本部の教育は基本的に共通言語で行われるから、それ以前の環境が——
(いやいや……詮索してどうすんだって)
 自身の悪癖に辟易しつつ、食券を買い求めて電子チケットを受信する。配給口Cの224番だ。大抵すぐ呼ばれるので、受け渡し口近くで待機する。
 フと、花灘を振り返る。彼はまだ悩んでいるようで、思案顔のまま食券販売機の列に並んだ。その横から、薄いグレー……白にも近い色の髪をした人物が突っ込む。そのまま二人で、何やら話をしているようだった。
「Cの224、Cの224でお待ちの方」
「あ、はあい」
 口の動き熱心に眺めていたせいか、受け渡しのおばちゃんに呼ばれて瞬きが多くなってしまう。少し反応が遅れた。
「はいっ、中華日替わりで油淋鶏定食ね」
「ありがとうございます」
 トレーを受け取りながら、受け渡し口近くの読み取り機に手首の端末をかざす。これで食事の受け取り確認と支払い確定がされた。
 ……さて。27番の席はどこだろうか。

 そして——話題に上がっていた『グラッド』という人物は誰だろうか?


2021/10/20


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