「名字ーちょっといい?」
そう呼ばれて振り返った先にいたのはクラスメイトの高尾だ。いつも一緒にいる緑間とは対照的な性格だけど、あれはあれでうまくやれてそうな気もする。
めちゃくちゃ仲が良いというわけでもないけれど、全く喋らないわけでもない。言うなれば数ある友人の中にいる友人Jみたいなものだ。まぁつまりはただのクラスメイトなわけで。
「なにー?」
「昨日黄瀬くんに怒られたっしょ?」
「?、いっつも怒られてるけど?」
「いやそうじゃなくてさーっつかそれもどうなんって感じだけど。怒られた内容はミミズだったりしちゃう?」
「あー?ん、そうそう。あのミミズ事件ね。よく知ってんね?昨日日曜だったから会ってねーはずだけど?あ、わかった。そういえば高尾ってバスケ部だっけ?そういや昨日うちんとことキセリョんとこ練習試合だったわ。結果は引き分けだろ?」
「え…なんでそんな詳しいの?」
「え?なんでって、怒られたついでにキセリョに聞いたからじゃん。あーそういえばあの時一緒にいるとか言ってたなー」
そう言って笑えば高尾は少しいぶかしげな顔をして、おれのことをじっと見てきた。ん?なに?おれの顔になんかついてるわけ?
「名字ってさ、黄瀬くんと仲良い…のか?」
「さぁー?あれは仲良いって言うの?」
「いやだって、なーんか毎回腑に落ちないんだよなぁ」
「ただの腐れ縁だって。おれがべらべら喋るのと一緒で、キセリョもなんだかんだべらべら喋るんだよ。聞いてもないのに」
「へぇ…」
「ちなみにおれが無理矢理ミミズ食わせたってのは本当だけど、あれお菓子だから」
「は!?」
「アメリカのお菓子でそういうの売ってんだよ。ココアクッキー粉々にして土みたいにしたなかに、それはもうカラフルなミミズのグミが入ってるってお菓子。そのミミズを本物のように見せかけて遊んでて、キセリョの前で見せびらかして食うんだよ。おれが食えるんだからお前も食えるっつって。んで、ぎゃんぎゃん泣き叫ぶキセリョの口に無理矢理詰め込んだら気絶しやがった。おれ人間が気絶する瞬間って初めて見たからもうめっちゃ興奮したわ!なにやっても起きねーの!一瞬死んでるみたいだったけどちゃんと息してたし大丈夫だろってとりあえず救急車呼んだんだよ。あの時代におれがケータイ持ってたら白目剥いて口からミミズ出してるキセリョの衝撃スクープ写真が手に入ったのになぁ!タイムマシンで戻れるなら戻って写メりてぇ…」
「ひでぇ…」
「あんときはマジで怒られたなぁ。絶交とか言われて女子か!と思ったけどどうやらマジっぽくてさ。三日ほど完全にシカトしてくれちゃって!」
「え…マジで?」
「おう!マジマジ!でもなんでか忘れたけど気付いたらもとに戻ってたんだよなぁ。めっちゃ不貞腐れた顔でなんで連絡寄越さねーんだバカ!って言われてさ。だからお前は女子か!ってのー」
「え?マジで絶交してたわけ?」
「話しかけんなって言われて、すぐ話しかけたんだけどさー「それすっげー名字らしいわ」見事にシカトされたからつまんなくなっておれ他の友達と遊んでたからキセリョのことすっかり忘れてたんだよねー。そしたらさっきのセリフ言われてさーマジびびったわ。ケンカ中のカップルかよ。マジウケる」
「なんか…黄瀬くんって苦労してんだなってしみじみ思うわ…」
「なんだそれ。まぁ一応苦労してんじゃね?おれあんま知らねーけど」
だってそうだろ。モデルもやって部活もやってって、そりゃ苦労してると思うわ。その上あんな性格だし友達って呼べる友達もろくにいなかったし。
中学に入ってからの普段を知らないからおれが言えることって電話できく本人からの近況のみだ。中二以降はバスケバスケっつって話す内容全部バスケだったけれど、別にそれが寂しいとか切ないとか、そんなことは一切思わなかった。
おれもおれで中学時代を楽しんでたし、それでも相変わらず連絡は取ってたし、暇さえあればお互いの家に行き来したりもしてたからなんてことなかった。逆に苦労してたのはおれのほうだったっつーの。まぁその話はおいといて。
「っつーか逆に問いてぇわ。高尾ってキセリョと仲良かったのか?」
「や、俺よりどっちかっつーと真ちゃんのほう?」
「真ちゃ…あー緑間?へー!意外!話かみ合わなそう!」
「いやぁそれがそうでもねーよ?っていうか名字知らねーの?緑間と黄瀬くんって同中だけど…」
「あ、そーなん?」
「マジか。あと同じバスケ部だったんだけど」
「ふーん?あ!もしかしてアレか!変態ばっか集まったキセキ的な世代!」
「ぶっは!なんだそれ!へ、変態ばっかって!ふはっ、しかも的いらねぇし!キセキの世代な!」
「へー!ほー!あの緑間が噂の世代かぁー!マジモン初めて見るわー!」
「あーやばい。今の久々にキタわ。名字お前最高すぎ」
「任せろ」
「ぶふ!ほんとおもしれー!っつかマジで知らなかったわけ?黄瀬くんから聞いてたんじゃねーの?」
「バスケの話は聞いてたけどあいつスゲー奴らがいるってだけで一切名前だしやがらねーんだよ。まぁおれも名前聞いたところでって感じだったから深くつっこまなかったけどさー」
「もうなんなのお前ら」
そうかそうか。緑間はキセキ的な世代の一人かぁ。うん、これはなんか興味わいてきた!いままでただのクラスメイトとしか思ってなかった奴だけれど、今日から違う!
高尾の話を聞きながらニヤニヤと緑間を見るおれに、高尾は何してんの?と怪訝な顔をしていて。おれはそんな高尾に告げるのだ。
「おれ緑間と友達になる!」
大きめの声で言ったから、少し離れた席の緑間まで聞こえていたようで。緑間のはぁ!?という声が聞こえたけどカンケーないもんねー!拒否権はねーから!
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