慌ただしく部室を出ていった黄瀬だったけれど、俺たちが正門へついたときにはまだそこにいて。一緒に話している奴は海常の制服を着ていなくて、なんか見たことある制服だなぁとぼんやりと思った。

あれ黄瀬じゃね?と隣で森山がつぶやいたのを聞きながら、まぁダチと会ってるならそれを邪魔するわけにもいかず。

適当に帰ろうぜ、と思っていた俺の思考とは逆に、森山のバカが黄瀬を呼んでしまった。あーぁもう余計なことしやがって。


「あ…先輩たち…」
「お前嘘つくなよー何が女の子とデートだ!思いっきり男じゃねーか!」
「いやぁ〜ははは…」


見つかった途端気まずそうな顔で苦笑いをする黄瀬の後ろでは、無表情にその様子を見つめている黄瀬の友達がいて。

さすがというか、なんというか。黄瀬の友達だからと決めつけるわけではないけれど、なかなか男前な顔してやがんなーと思った。

別に品定めするわけじゃないけれど、学ランがよく似合うだとか、俺より少し背が低いくらいだとか、そんな感じで見ていたらまぁ目が合ったわけで。

ばちり、とかち合った視線に、逸らすのも変な話だし…と迷っていると、向こうがにこりと笑った。おおぅ…イケメンだな。


「もしかしなくてもキセリョの先輩ですか?あ、ってことはバスケ部ですよね?」
「え、あ、おう」
「へー!やっぱ背高い人多いんだなぁ〜!威圧感ぱねぇ!」
「そ、そうか?あんまり変わんねーだろ」
「いやほら!体格とかですよ!おれ全然筋肉つかなくてひょろいんですよね〜プロテインまじ意味ねぇんすよー」


困ったもんです、と笑う目の前の相手は思っていたより硬くもなく砕けすぎでもなく。はじめに目にした無表情からスカした奴なのかと思っていたけれど、むしろとっつきやすい雰囲気を出すことに一気に好感度が上がった。

初対面でも距離感が丁度いいと思わせる。うん、友達作るのうまそうだな。

黄瀬の友人だと言われれば、誰だってまずはあのキセキの世代の奴らを思い描くわけで。そうじゃなくてもあの黄瀬だ。その友人となれば一癖も二癖も持っていてもおかしくはないってのがまず固定観念だったわけで。

意外にも普通すぎて逆にビックリしたというか、いや別にマイナスの意味じゃなくて。


「あ、まだ名乗ってなかったですね。おれ名字って言います。秀徳の一年でお好み焼きやでバイトしてます!近くに来たら是非寄ってってくださいね!サービスしますんで!あ、もちろん代金はキセリョ持ちなんで遠慮なくどうぞ!」
「ぶはっ、なんだそれ。どっかで見たことあると思ったらそれ秀徳の制服だったんだな。俺は笠松だ。三年でバスケ部のキャプテンをやってる。店の名前教えてくれたら今度機会があれば行かせてもらうわ。もちろん黄瀬持ちで」
「ちょ!名字も笠松先輩もヒドいっスよ!オレを財布みたいに扱って!」
「うっせーぞキセリョ。きゃんきゃん喚くなよ」
「喚いてねーし!ってか何勝手に自己紹介して和んでるんスか!オレ放置ダメ!絶対!」
「見ての通りこいつうざいでしょ?笠松さんキセリョの世話で「世話ってなんスか!」うるさ。絶対大変な思いしてると思うんですよねー。遠慮なくシバいていいですからね!」
「わかってくれるか?でも大丈夫だ。もうシバいてる」
「ぶっは!やっべぇ!笠松さんやべぇ!もうシバいてるとか最高!」
「ちょちょちょちょっとぉー!オレ抜きで盛り上がるの禁止っス!」
「何言ってんだ。話のネタの中心はお前なんだからそこは喜ぶべきじゃね?」
「そうだぞ黄瀬」
「え…そう、っスか?」
「「おう」」
「ん、んー…まぁ二人がそう言うなら…喜んどくっス…。なんか腑に落ちないけど」
「「(ちょろ…)」」
「黄瀬、お前…ちょろいな!」
「どういう意味っスか森山先輩!」


そのまましばらく正門のところで話していたが、時間も時間だしそろそろ帰るか、と切り出せば、二人は微妙な顔をしてお互いを見やった。アイコンタクトでどうする?って言ってるのが見て取れる。なんだ?なんか問題でもあるのだろうか?


「?、帰らねぇのか?」
「え、あー…えっと、そうっスね…」
「なんだ?お前ら二人学校に泊まろうとか考えてたりして?」
「違うっスよ!ただ…」
「ただ?」


言葉を濁らせてちら、と隣にいる名字の顔を窺う黄瀬に、俺も森山も首を傾げた。そんな困惑した黄瀬の視線を受け流し、小さく溜め息を吐いた名字はそうですね、と言って。


「もう遅いし帰りましょうか。明日も朝早いですし。ほら、行きましょう」
「名字っ!」
「え?いいのか?」
「何がです?」
「や、でも黄瀬が…」
「っ…!」
「あぁ、アレは気にしないでください。そんなことより笠松さん部活でのキセリョの失態教えてくださいよー!」
「お、そういう話題なら俺に任せろ!」
「やっりぃ!森山さん、でしたよね?ナイス性格!」
「お前もなかなかいい性格してるぞー?名字」


一瞬で意気投合して仲良く歩き出す二人を、これまた不服そうに見ている黄瀬。何なんだ、と思いながら、いまだ歩き出さない黄瀬の背中を思いっきりシバいて行くぞ!と怒鳴ればようやく動き出す足。

痛いっスよ、と小さく呟かれたそれに、背中の痛みだけじゃないことはなんとなくわかった。

アレ呼ばわりされたことか、それともそれ以前の話か。言うなればそうだな…おもちゃを取り上げられた子供、のような、所有物を奪われて怒っているような。なんにしろ妙な二人だと思わざるを得ない。

いつも何かと騒がしい黄瀬も、明日は槍でも振るのかと思えるほどしおらしく。時折前を歩く二人の様子を見ては拗ねたように目を逸らして眉間にシワを寄せ、自信に満ちたいつもの姿は一体どこへ消えたのやら。

それを振り返ってその様子を盗み見る名字に、黄瀬は気付いていない。ふと目が合った俺に満足そうににやり、と意味深な笑みだけ残し、何事もなかったのように前を向いて歩く。

ほんと、何なんだよお前ら。

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