ゆらゆらと揺れる海面は青黒い光を反射していて。周りになにもないこの船を照らしだすのは、雲のない空を独り占めしている月だけだった。

僕なんかがここにいてもいいんだろうか、彼に言わせるとくだらないことがずっと頭を巡っていた。


「ナマエ!ここにいたのか!もう寝るぞ!」
「ルフィ。先に寝ててよかったのに呼びに来てくれたの?」
「当たり前だろ!」
「当たり前なんだ…」


彼の言う当たり前が、僕のいう当たり前ではなくて。それがなんだかくすぐったくて、とても嬉しかった。


「ルフィ眠たい?」
「ん?そうだなァ、まだ眠くはねェかな!」
「じゃあ僕とお話しようよ!ルフィの話が聞きたいな!」
「いいぞ!何が聞きてェんだ?」
「僕と出会うまでのこと全部!」
「えェー!朝になっちまうじゃねェか!」
「なったらなったでいっぱいお昼寝しようよ!ね?」
「しょうがねェなー」


唇をとがらせて僕の隣に座った彼は、それでも楽しそうに笑って本当に最初から話し始めた。

彼が海賊を目指すきっかけや、麦わら帽子の約束や、育った場所での出来事。彼が語る言葉を一字一句聞き逃さないように、忘れてしまわないように、この先一人になっても思い出せるように、僕はいつになく真剣に耳を傾けた。

けれど、そんな彼がふと僕のほうを見て不思議そうに首をかしげた。なんだい?と言葉を返す僕に、惜しげもなく酷く簡単に僕の地雷を踏んだ彼は当然悪くない。


「そういえばナマエはなんで一人でいたんだ?仲間はいねェのか?」


仲間。僕には必要のないソレ。

いや、必要ないわけじゃない。できることなら僕だって仲間がほしい。けれど、出会った仲間が良すぎると、仲間のためにすべてを捨ててゼロに戻さなきゃいけない。

それは結局一人でいるのと何も変わらなくて。あんなに寂しくて悲しい思いを何度もするくらいなら一人で充分だって諦めていたのに、彼に出会ってしまった。


「僕、仲間作るの下手くそなんだぁ」
「なんだそれ。じゃあおれの仲間になるか!な?」
「それこそなんだよそれ。次の島までって約束だろ?」
「そうだけど…いいじゃねェか!どうせ一人旅で急ぐもんねェんだろ?ならおれの仲間になれ!」
「………僕、ルフィにまだ言ってなかったんだけどさ、これでも一応お尋ね者なんだ」
「だからどうした!おれだって手配書に載ってる!けどお前の手配書なんか見たことねェぞ!」
「そりゃ出回ってないからね」
「なら問題ねェじゃんか。な?だからおれの仲間になれよナマエ!」
「うーん…」


この太陽のように眩しい彼の手を、僕が掴んでもいいのだろうか。彼の優しさに甘えて、彼の全てを犠牲にしてもいいのだろうか。いいや、そんなことできない。こんなにも僕に希望を与えてくれる存在の、大切なものを僕が壊してしまってはいけない。

ならば今このときだけ。せめてこの瞬間だけでいいから。彼の仲間になることを望んでもいいだろうか。次の島についたら、すべて元に戻すから。なかったことにするから。少しだけ我儘を言いたい。

だから神様、もしいるならちょっとの間だけ目を閉じていてね。


「ルフィ…、いいのかな?僕が、君の仲間になっても…許されるのかな?」
「何言ってんだ!いいに決まってんだろ!おれが許す!」


何も知らないくせに、バカだなぁ本当に。

でも…、でも…、ありがとう。


「っ、ありがとうルフィ…」
「なんだ、泣くほど嬉しいか!ししし!おれも嬉しいぞナマエ!」


冷め切ってしまった僕の心に、再び温かい火が灯った。頼りなく燃え始めたそれを、潮風や荒波で消えてしまわないように、掌で大事に大事に包み込もう。

こんな僕が仲間になることを許してくれた彼のために、この灯火が消えるまでは、彼に降りかかる火の粉は全力で消させてもらうとしよう。

あぁ、もうすぐ本当に夜が明けそうだ。



幸せをめいっぱい浮かべた海でふたり永遠におやすみ

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