「やっほー!元気してるー?」
なんとも場違いな声と共に、裂けた空間からひょっこりと顔を出した少年はセンゴクから拳骨を貰ってお叱りを受けていた。それを面倒くさそうに聞きながらざっと部屋の中を見渡したかと思えば、何やら目を輝かせて楽しそうに笑って。
その様子に更にセンゴクが怒るも、もうそれはどうでもいいと言って手で制すと、今まで成り行きを見守っていた面々に向き直りこう言ったのだ。
「お前ら強そうやん!俺と勝負せーへん?」
七武海。そう呼ばれる強者たちはそんじょそこらの海賊とはワケも立場も質も違う。その確固たる面子を前にして、あっけらかんとそう言ってのけた少年に、皆が眉をひそめるなか、少年の後ろでセンゴクが額を押さえながら溜め息をついていた。
「俺体なまってるから鍛えたいねんけどな、生憎今スーパーひよ里ウォーカー持ってへんねん。向こうに置いてきてもーたみたいやねん。んでここの下っ端相手にしてたんやけどどいつもこいつもクソ弱くて話にならんわ。屁やで屁。あ、女の子おるのに屁なんか言うたあかんかったな!ごめんやで!んで久しぶりにセンゴクおちょくって遊ぼう思たらなんや強そうな奴らめっちゃおるやん!俺が求めてたのはこういうのやねん!な?遊ぼうや!ええやろ?暇やねん!」
何やら聞き慣れない単語がいくつかあったにしろ、この少年の言葉にはツッコミどころが満載である。が、いつもなら鋭いキレのあるツッコミをする担当者もとい妹がここにいないのでスルーせざるを得ないのであった。しかしスルーできずに一番に反応したのは独特な笑い方が特徴のドフラミンゴだった。
「フッフッフッ…、ボウズ。てめェにいくつか質問してーんだが…勝負はそれからってことでいいか?」
「えー…はよおわんねやったらええよ。ってかボウズって!お前が言うなやガキ」
「フッフッフッフッフッ!このおれ様に向かってガキだと!?言うじゃねェか!」
「その笑い方笑いにくないん?なんかきもくない?そう思わん?」
「な、なんじゃ!わらわに言うておるのか!?」
「!、えらいべっぴんさんやのにその喋り方、夜一みたいやな!せやでー、あんたに聞いてるんやでー!かわえーなー!」
「わらわに向かってその態度!貴様石になりたいのかっ!?あ、頭を撫でるでない!ええぃ!気安く触るなっ!」
「夜一と乱菊とルキア足して2で割ったみたいやな」
「???」
「その顔もかわえー!」
ドフラミンゴのことはお気に召さなかったようで、少年はハンコックで遊び始めた。
その様子を遠巻きに見ていたクロコダイルが、放置されているドフラミンゴを見てニヤニヤと笑っている。今にもいい気味だ、と言ってしまいそうになる口をなんとか葉巻で抑え込み、紫煙を吐き出した。
ふいに、ドフラミンゴがすっと手をあげて少年へと狙いを定める。するとハンコックの頭を撫でてからかっている少年の体がずるずると動き始め、ドフラミンゴのほうへと引き寄せられる。
名残惜しそうに少年の手からするりと流れ落ちるハンコックの美しい髪が、なんとも映画のワンシーンのようだとジンベイは密かに思っていた。
「なにこれ!勝手に体が動くんやけど!すげー!」
「てめェ…おれを無視するとはいい度胸じゃねェか」
「おいピンクてめー!ふざけんのはセンゴクのカモメだけにせーよ!」
急に出てきた自分の名前に、ふざけてなどいない!と怒鳴る前に、ドフラミンゴが会議室の机に少年を押さえつけた音で、その怒号は口から飛び交うことはなくなった。
シンと静まりかえる会議室の中で、一番初めにその静寂を壊したのはやはり少年だった。
「あっはっはっはっ!それそれ!その殺気!あーたまらんわー!」
「あんだと?」
「ええよええよ。もっと出してんか。俺をそのまま殺す勢いで来てくれんと、俺も本気出せへんやろ?」
「いいだろう…お望み通りにしてやろうじゃねーの!」
そのまま戦闘態勢に入るドフラミンゴを止めるにはもう遅く、机に押さえつけられたままニヤニヤと心底楽しそうに笑う少年の様子は、あの七武海が若干引くほど異質なものだった。誰もがこの戦闘が始まった先をわずかに期待した矢先だった。
「縛道の六十一、六杖光牢」
荒々しくもなく、かと言ってそこまで冷静でもない。欲情を必死に抑えたような声が全員の耳に届いたときにはもう、ドフラミンゴの体を光の刃が貫いていた。
「ええか?戦闘っちゅーのは頭に血がのぼったらそこで終いや。もっと冷静に、それでも冷めぬ熱をじわじわ燃やさなおもろい戦いはできんで。だからガキ言うたんや。わかったかー?」
机に押さえつけられていた体が六杖光牢により自由になったところで、少年は机の上に立ち上がり、身動きが取れないドフラミンゴの頭を撫でる。その光景に誰もが息をのみ、言葉を発するのを忘れていると、すっと人差し指をドフラミンゴの額へと向けた。
ごくり、と動くドフラミンゴの喉を見て、にこりと笑うと、額からつつっと下がった指は丁度六杖光牢が刺さっている所でぴたりと止まった。その場にいる全員が嫌な予感を感じ取り、センゴクが動くよりも先に、少年の人差し指の先がまばゆい光を集めだした。
「大丈夫や。威力は10分の1くらいにしといたるさかい安心しィ。死にはせーへんからまたここで会うたときはこれに懲りずに相手したってな!」
やべェもんを相手にしちまった、とドフラミンゴが最後の意地でニヤリと笑うと、同じく少年もにやりと笑う。
そしてその薄い唇から紡がれる単語は本当に短く、しかし絶大な恐怖を覚えさせるには充分だった。
「虚閃(セロ)」
凄まじい威力の閃光が真っ直ぐに放たれると、一瞬にして会議室の壁が吹き飛び、ドフラミンゴも姿を消した。砕け散った壁の向こうから見えるのは、青々とした美しい海の景色だった。
ぽっかりと空いた壁の穴から吹き抜ける潮風が、少年の紺色のジャージをひるがえした。右胸に猿と書かれたワンポイントが酷く印象的で、いや、それだけではなく、少年の醸し出す空気が強烈すぎるのだ。
「な、なんてことをしてくれた!」
「あかんなァ、10分の1って言うたけど結構威力出てしもたわ。霊絡見る限りまだ生きてるとは思うけど念のため保護したってなー?俺も久しぶりに虚閃打てたしなんか気分良いからこのままずらかるわ!壁代はあのピンクにでも請求しといたらええやろ?ほな!」
そう言って少年は、来た時と同様に避けた空間へと消えていった。
最後は憎らしいくらいにやわらかい笑顔で
疑問とわだかまり、そして全員の興味を一斉にひきつけたまま何一つ答えることなく姿を消した。
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