「黄瀬くんさ、こんなとこで何してんの?」


家の鍵を忘れて帰ることもできず、持ち合わせた金額も少なすぎて話にならず、だからって誰かの家に泊めてって言えるほどの人脈もなく。

こういうときに限って家には誰も帰ってこない日だったりするし。最悪だ。今日は厄日か。人生で初めて絶望を感じたと言ってもいいくらいだった。

そんなオレが公園のベンチで今日の寝床を必死に考えているところに、なんとものんきな声が響き渡った。


「え?あ…えっと、名字…くん、だっけ?」
「おーよ」


ラフな格好をした多分クラスメイトがそこにいた。

会話と言う会話もそんなにしたことがないのに、あたかも前から友達だったみたいな。そんな軽いノリで話しかけてきた彼は、戸惑うことなくオレの隣に座って。


「なんかお悩み中?」
「は?なんで?」
「んー、気付いてなかったと思うけどおれ結構前にもこの道通ったんだけどさ、黄瀬くんずっと同じ体勢のまま動いてねーんだもんなぁ。なんかあったのかなって思って思わず声かけちった」


でも余計なお世話だったみたいだけど、と笑って席を立つ彼は、オレの反応に嫌な顔一つ見せず、小さな苦笑いをこぼしてじゃ、と手をあげた。

なんとなく、本当になんとなく、彼ならいいんじゃないかって思ってしまって。咄嗟に待って、と引き留めたオレに、ビックリした顔で振り返った彼がいた。


「ど、どした?」
「あのさ、えと…」
「ん?」
「こんなこと頼まれても困ると思うんだけどさ…っていうか、全然断ってくれていいんだけど!」
「なに?」
「えっと…その…今日だけ!ホント今日だけでいいんで、泊めてくんないっスか?」


は?眉を寄せた彼に、オレはすぐ言ったことを後悔した。やっぱり、言うんじゃなかった。誰かに頼るんじゃなかった。自分でなんとかするべきだった。僅かな期待を持った自分がバカだった。なんて。

今のナシ!忘れて!と言おうとしたオレの言葉は声になることはなかった。それは彼が、いいぜ!と理由も聞かずに了承したからだ。


「え?いいんスか?」
「おう」
「え、でも、オレたちそんな仲良くないっスよね?」
「そうだな」
「迷惑じゃないんスか?」
「別に?まぁおれの部屋狭いけどそれでもいいならって感じだけど」
「あ、あんたバカっスか?」
「はぁ?黄瀬くんよりかはマシなんだけど」
「な!なんスかそれ!酷いっスよ!」
「先にひでーこと言ったのはどっちだよ」
「え、え、や、でも、オレ…「あのさぁ」え?」
「二択やるよ。肌寒いこの季節にベンチで酔い倒れのおっさんと一夜を共に過ごすか、ちょっと狭くて汚いけどあったかいメシ風呂布団がついてくるそんな仲良くないクラスメイトの家に行くか、ほらとっとと選べ」
「そ、それはっ…」


横暴なくらい、強引にそう告げた彼はニヤリと笑って。

そんなふうに言われたらそりゃ後者を選ぶに決まっていて。お腹もすいてるし、お風呂だって入りたいし、ちゃんと布団で寝たいに決まってる。


「…お、お世話になります」
「おう、決まりだなっ!」


そう言って笑った彼に、オレの中の冷え切った場所がじんわりと温かさを帯びた気がした。



ただ、笑うきみに甘えたい
(そういやおれの妹が黄瀬くんのファンだから自慢してやろーっと!)
(サインも写真も特別にオッケーでいいっスよ!)
(は?調子乗んな!妹はやらんぞ!)
(えぇ!?オレの善意が!)

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