最近、彼と話しているときに違和感を感じるようになった。ふとした瞬間に見せる探るような目つきや、なげやりな返事、そして唐突に引かれた境界線。

話の流れでいつもならこう返してくるだろうという予想もことごとく裏切られる。いったいどうしたもんか。


「名前、最近のお前なんか変だぞ?」


生物委員会でもないのに俺の仕事を手伝う彼に尋ねてみると、へらりと笑って何が?と返される。うーん、なんか、しっくりこない笑い方だ。


「何がって言われても、よくわかんねーけど…」
「なんだよそれ。適当なこと言うなよ」
「俺なんかした?」
「は?」
「なんつーか、ちょっと余所余所しくねぇ?俺こういう性格だからもしかしたら気付かないうちにお前に嫌な事してたかもしんねーし…。もしそうなら謝るからさ」
「………」


それっきり、彼は口を閉ざしてしまった。その反応に、俺はやっぱり勘違いじゃなかったんだと思った。何か彼に対して嫌な事をしてしまったらしい。だけどそれがなんなのか、考えても考えても全然わからなかった。

気まずそうにこちらを見ては、疑いのまなざしで俺を見る彼に、俺はますます意味がわからない。


「名前?」
「…変な事聞いていいか?」
「え?あ、おう」
「お前は竹谷八左衛門か?」
「はっ!?」
「答えろ。お前は竹谷八左衛門か?」
「え?や、そうだけど…え?何だ?どうした?」
「本当にそうだと、誓えるか?」
「…お、おう」
「何に誓う?」
「え、と…お前?」
「俺?」
「だって今、お前しか誓えるもんがねぇし」


少し面食らった表情をしていたけれど、すぐに真剣な目になって、彼は俺の目の前まで歩みを進めてきた。そうして両の手で俺の頬を力いっぱい引っ張り出す。え!なに!?すっげぇ痛いんだけど!


「ほい!ひへぇ!」
「わかった。一応信じるよ」
「は?」


ばちん、と放された頬はきっと赤くなっているであろう。まだ納得のいかない顔で信じると言われても、いまいち信憑性がないっていうか。


「ってかなんなの?信じるとか信じないとか。なんかあった?」
「っつかこの話もうやめようぜ」
「え!何で!?」
「キリねぇじゃん。最初から疑ってもどうせ俺はそれが本人だって確信できるものがわかんねーんだからさ、意味ないっつーか。俺がしんどいだけだし」
「え?ちょ、何の話?まじでついていけてねぇんだけど…」
「いいんじゃね?ほら、さっさと虫探すぞ。日が暮れちまう」
「え…、あー…おう…」


信じるとか信じないとか、疑うとか疑わないとか。きっと三郎と雷蔵のことを言ってるんだとすぐにわかった。

ここ数日あいつらと彼の関係がぎくしゃくしていて、それが何故か兵助にまで飛び火していて。このままじゃ俺たち五年の絆みたいなもんが一瞬で崩壊するんじゃないかって思った。

俺が食い止められるなら、って思ったりもしたけれど、結局のところそれは無理な話で。一度誰かを疑うことを覚えたら、周りに生きている人間全部が疑わしくなってくる。

裏切りが忍びの本業だと誰かが言っていたけれど、今の彼はまるでその文字通りだった。


"どうせ俺はそれが本人だって確信できるものがわかんねーんだからさ"


そう言った彼に、俺は少し泣きたくなった。

いくら俺が竹谷八左衛門だって言って、俺が俺を証明できるものを彼の目の前に差し出したとしても、彼からすればその証明すらもきっとわからないんだ。

じゃあ今まで彼はどういう心情で俺たちと関わってきたのだろうか。彼の中にある俺たちという証明は一体なんなのだろうか。それを聞いて、俺は同じものを差し出せるだろうか。

こんなこと、考えだしたら確かにキリがない。だから彼は終わろうと言った。

その終わりがさす意味ってのは、俺たちの仲じゃないよな?



俺に誓うと言ってくれた八左衛門の言葉が嬉しかったのに、どうしてそれを素直に受け取れないのかなんて。頬をつねってもわかりゃしない。

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