あの人は、来るのが突然なら去るのも突然だった。その存在はまるで嵐のよう。
来たら来たで騒がしくて、去ると妙に寂しさを感じてしまう。そういう人ほど心に残ったりするもんだから、本当に困ってしまう。
去ってしまうのなら、来ないでほしい。残る寂しさを埋めてくれないのなら、笑わないでほしい。それでも貴方が来ると、心の底から嬉しく思ってしまうものだから、本当の本当に、困ったもんだ。
「で、今回はいつまで此処に?」
「なんだそれ。俺が去ること前提か」
「だってそうでしょう」
「ま、否定はしねーけど」
やっぱり、否定してくれないんですね。私がどんな言葉を望んでいるか、知ってるくせに。けれど本気で憎めないのが貴方の性格であって私の性格でもある。
「例えるなら先輩は嵐です」
「え?なんで?」
「何もかもが突然で、人の心を荒らしては治すこともなく去っていくからです。消せない傷を置いて行くからです」
「滝…俺はお前を傷つけたか?」
そい言って悲しそうな顔をするそれも、演技ではないのだろうか、と疑ってしまう。この人を信じたところで、どうせまた裏切られてしまう。
二度といなくならないと約束しておきながら、それを破るこの人を許す私は、密よりも甘い。
「もう何回、私を傷つければ気が済むのです?」
「そうか、そんなにも傷つけていたのか。まだ、治らねーの?」
「この傷は、そう簡単には治りませんね」
「ふむ。困ったなぁ。不治の病かぁ」
「そう長くはなさそうです」
「えー、そんな馬鹿な。お前のその傷、すぐに治るものなのに?」
「治りませんよ。どっかの誰かさんのせいで」
「治るさ。俺がつけた傷だ。俺にしか治せない。そんな俺が言うんだから治る」
ぐい、と引き寄せられた腕に、包まれた体。トクントクン、と音を織りなす先輩の心臓。生きている、と実感できる。私も、この人も。
痛みが引いていく。ズキズキと荒んだ心が、温かな光に包まれたかのように、さっきまでの痛みが嘘のように。
「な?治っただろ?」
「…ずるい御人だ」
「それは御互い様だ」
「何故です。私は先輩を傷つけたことなどありません」
「嘘を言うな。俺は充分傷ついたぞ?」
「いつです」
「ついさっきかな」
「…はて?」
先輩、一つ言わせてください。私は貴方の帰りを健気に待つ女子(おなご)ではありません。ただの先輩と後輩であって、ただ私は先輩に少し憧れを抱いていただけなのです。
私が先輩を待つという概念を覆してください。去るも去らないもどうぞ御自由に。私は先輩など待ってはいない。先輩が私を待っているのでしょう?
いつか私が先輩を追い越す、その曖昧な危険を楽しむために。私が、目標を先輩から逸らさないように、確認しに来ていることなど。当の昔から、知っております。
「知っておきながら傷つくなんて言うもんだから、俺の方が傷ついたっての」
「それはそれは。すいませんでした」
「心がこもってねーなぁ」
「何を言ってるんですか。こんなにも心のこもった謝罪はありませんよ?」
ガキン、と私が放った戦輪を何処から出したのかクナイで弾き返す先輩に、腕の中でニヤリと笑った。
「憎たらしい後輩だ。そんな子に育てた覚えはねーぞ?」
「いつ私の親になったのです?あまり甘くみないでもらいたい」
「はは、俺の腕の中にいながらいつの間に戦輪を投げたのか知らないが、全くヒヤヒヤするぜ」
「嘘はいけませんね。楽しんでるくせに」
「ん?バレたか」
いつだったか同じようなことを先輩に言ったことがあった。嵐だと例えた私に、先輩はこう吐き捨てた。お前は曇天だ、と。
なんて美しくない例えだ。当たり前のように何故だか問えば、あの人はとても愉快に笑った。
「お前が俺を引き寄せるからだ」
ならば今度はこちらから仕掛けよう。
嵐を呼ぶ、私は曇天。
引き寄せるはその戦輪で、いっそその心臓を貫いてしまおうか。
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