※日向がまだ中学生のときのお話

「あ!先輩見つけた!」

校舎裏の日当たりのいい場所で寝転んでいた先輩に駆け寄ると、あからさまに嫌そうな顔をして盛大に気持ちのいい舌打ちを一発お見舞いされた。

「まぁたお前か有田」
「有田じゃありません!日向です!」
「うるせぇ。お前は有田みかんの有田なの。先輩が後輩をどう呼ぼうが自由なの。このオレンジ頭。ドチビって呼ばないだけありがたく思えバーカ」
「先輩!バレーしませんかっ!」
「全スルーかよ…」

そう言って泣き真似をする先輩をじっと見る。気まずそうに嘘泣きを終えた先輩に突然頭をはたかれたけど全然痛くない。

「っつか何でおれ…」
「先輩ヒマそうだし!」
「おれは忙しい」
「え?でも今寝てましたよね?」
「寝るのに忙しい。学生の本業は勉強でも部活でもなく睡眠だってこと知ってたか?まぁ有田はバカだから知らんだろう。よいよい。んじゃおやすみ」
「先輩ィィィイイイ!バレーしましょうよぉぉぉぉおおお!」
「うるせぇ!耳元で喚くな死ぬ!」
「トス!トス打ってくれるだけでいいんで!そしたらおれがバシーンってするんで!」
「いやそれお前がスパイクうちたいだけだろ」
「はい!おれスパイク好きなんです!こう、ガッとうちたいんです!あの手にジンジンくる感じが忘れられなくて!でも…一人じゃスパイクはうてません。トスをあげてくれる人がいないと…レシーブの練習だって…」
「あーあーあーあー!お前そのハイテンションから急降下するのヤメロ!妙に罪悪感生まれるから!」
「おれ知ってるんです」
「あ?」
「先輩、いつもおれのことうざがってるけど最後にはちゃんとおれの練習に付き合ってくれて、無茶しようとするおれの行動とか止めてくれて、口は悪いし顔もちょっと怖いけど、本当は凄く優しいってこと!おれ!知ってるんです!」
「有田、そうやって人の弱みに付け込む会話はよくない。非常によくないぞ」
「日向です」
「おれお前の将来はバレー選手じゃなくて営業セールスマン向いてると思うんだよね」
「小さな巨人になるのがおれの夢なんです!」
「お前おれと会話する気ねーだろ」
「先輩!お願いします!」

ばっと頭をさげると先輩と自分の靴が視界に入った。かかとを吐きつぶして履いている先輩の上履きはなんだかよれよれだ。
その点おれの上履きは全然綺麗だ。まぁちょっと汚れてるけど、かかとは踏んでないから形だって崩れてない。

「(あれ?あんなとこに落書き?)」

靴には名前を書くときしか触ってないはずなのに、親指の付け根あたりにヘタクソなみかんの絵が両方の同じ場所に書かれていた。
誰がこんなことをやったかって、そんなことするのは目の前のこの人しかいないわけで。

「せせせ、先輩!おれの上履きに落書きしたでしょ!?これいつ書いたんですか!?今気付いたんですけど!」
「え?あーそれー?いつだっけな?1ヶ月前くらい?」
「結構前だし!」
「っつかんなことどうでもいいから早くすんぞ。おれの貴重な時間を使わせてやるんだから上達しなきゃ殺す」
「ひっ!お、オス!頑張ります!」
「んじゃ有田ボール貸せー」
「日向です!」
「お前…、めげねーなぁ」

ほら!やっぱり優しい。だからおれこの先輩大好きだ!名前、知らないけど!





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