※黄瀬の双子のお兄ちゃん別バージョン



帰り道、新作の本はないかと本屋へ行くと、珍しい人に出会った。雑誌コーナーで立読みをしている後姿を見て、もしかして、と思って近づけばやっぱり彼で。読んでいる雑誌を見て、僕は頬が緩むのを感じた。


「お久しぶりです、名前くん」
「ッ!?」


できるだけ視界に入るように近づいて声をかければ、大きな声は出さなかったものの、彼はあからさまに体を揺らして反応した。

切れ長の目を見開いてこちらを見る彼は、僕だとわかった瞬間長いため息を吐いてびっくりした、と小さくつぶやいた。それがなんかちょっと可愛かったとか言ったら、確実にキレるでしょうね。

ふと見下ろした彼の足もとには竹刀が入っているであろう袋と、スポーツバックが置かれていた。


「その荷物を見る限り、もしかして試合でした?」
「試合っつーか、誠凛と合同練習みたいな?」
「なるほど。今一人ですか?」
「うん。みんな先に帰ったかんね」


ぺらりぺらりと、丁寧にページをめくっていく指を目で追いながら、僕は何をするわけでもなく彼の隣に立っていた。僕より少し高くて、あの人よりかは低い。平均だ、と言い張る彼の主張は間違ってはいないのだけど…、彼が見ているページでかっこよくキメている人物と、まさか双子だとはにわかに信じがたい。


「顔だけ見ればそっくりなんですがね…」
「なんの話だよ」
「あなたと黄瀬くんですよ」
「ああ、そっくりさんとは言われても、誰も血が繋がってるとは夢にも思わないだろうな」
「名字違いますしね」
「まぁね。身長も涼太のほうが高いし、髪色も金髪じゃなくて黒いし髪型もちげーし」
「今日はメガネかけてないんですか?」
「伊達だからな。別に目悪くないのにメガネかけるって逆に視界悪ィからやなんだよ」
「じゃあ外しとけばいいじゃないですか」
「騒がれんのだるい」
「性格までまるっきり違いますね」
「どっちかっていうとおれは目立っちゃだめなほうだから。お前と一緒」
「影、ってことですか?」
「そ」
「それにしては隠れきれてない影ですね」
「うっせーなぁ。っつかお前はお前で用事あったんじゃねーの?」
「ありましたよ。でも名前くんに会えるって貴重ですし、そっちを優先しようかと思いまして」
「…、なんだそれ」


あ、照れた。黄瀬くんといい、彼といい、わかりやすい反応ばかりしてくれるところは似ているんだなぁとか思ったり。


「黄瀬くんと連絡取ってますか?」
「あー?あー…まぁ…」
「取ってないんですね?」
「んー…」
「名前くん、聞いてますか?」
「悪ィ、ちょっとこれ買ってくるわ」
「え?あ、はい」


そう言って今まで見ていた雑誌を手に持ち、彼は颯爽とレジへと向かった。僕はその背中を見送りながら、なんだか余計なお世話だったろうか、なんて考える。

彼は干渉されるのがあまり好きじゃない。黄瀬くんのことに関しても、あまり触れてほしくないことを僕は知っている。けれど、黄瀬くんと家族だという認識を忘れたくないって思っているのも確かで。

だからああして、黄瀬くんが載っている雑誌をチェックしてはこそこそと買って集めている。そのことを黄瀬くんはもちろん知らないし、彼は絶対に言わないだろうし。

彼に言わせれば、それは自分が欲しかった雑誌でたまたま涼太が載っていただけ、なんて、可愛らしい理由を並べるのだろう。


「黒子」
「あれ?帰ったんじゃなかったんですか?」
「買ってくるとは言ったけど、帰るなんて言ってねーし」
「そうでしたか」
「どうせ暇だろ?マジバ行こーぜ」
「別にいいですけど、僕も買いたい本があるのでちょっと待っててもらえませんか?」
「あーはいはい。んじゃそのへん見てるわ」


そう言ってまた別の雑誌を手に取った彼は、僕が声をかける前と同じ体勢になっていた。相変わらずその手に持つ雑誌の表紙が黄瀬くんなのには少しだけ笑えた。

ここで最大限にミスディレクションを発動して、彼にばれないようにその姿を一枚、ケータイにおさめた。それを一つのメールに添付して、愛されてますね、と一言そえて送り出す。送信先はもちろん、彼の片割れに決まっています。



愛されなかった方の男の話
(送ってすぐに黄瀬くんから電話やメールがたくさんきましたが、その時僕は名前くんとの時間を楽しんでいたので一切相手にしませんでした)
(ポテトつまみながら嬉しそうに黄瀬くんの話をする名前くんが可愛いのでもう一枚撮っておきましょうかね)

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