生まれてから人になるのに30年かかる。
人から元に戻るのに50年かかる。
そうして残り20年生きてようやく死ねる。
トータル丁度100年かかって一生を終えるおれたちは、周りの環境とその時々の世界に応じて生き長らえていく。

子孫を残す必要はない。死んだ瞬間、また別の誰かとなって生まれ変わるから。
性別はない。それは人になるときに決めればいいことだから。

どんな世界へ落ちたとしてもちゃんと最後まで生きれるようにと、おれたちの中には人以上の潜在能力と適応能力が備わっている。
時にそれは必要のない世界だったりもするけれど、力があるにこしたことはない。

性格だってちゃんとバラバラに生まれ変わる。
前のやつの記憶を共有する機能は備わっていないけれど、生まれ落ちた瞬間から全てを悟り、理解することができる。
時には人の手を借りて生き延びて、与えられた世界で一生を過ごす。

そうやって繰り返し繰り返し、巡り巡って今おれはここにいる。それが奇跡だという人もいれば、化物と罵る人もいる。
さて、お前はどっちだ?エレン。


「それ、本当なのか?」
「信じるか信じないかはお前次第だ」
「そんなこと急に言われても…困るし…」
「一生のうち、一人だけに話すことを許されている。別に話さずに終わってもいいんだけどな。話すのなら、一人だけって決められてんだ」
「それ破るとどうなるんだ?」
「死ぬ」
「破った時点で?」
「そうだ。そして二度と生まれ変わることはできない」
「え…?それって…?」
「おれという異端な存在がどこかの世界に生れ落ちることは二度となくなる。お前らでいう絶滅ってやつだ」
「まじ、かよ…」
「マジだ」
「じゃ、じゃあ!もっと場所選んで、もっと真剣に、もっと、もっとちゃんと人選しろよ!なんで俺なんだよ!」
「さぁ…。なんでだろうな…?わかんねぇ…。でも場所はちゃんと選んだつもりだ。おれたちの声が届く範囲に人の気配はねぇし、内容が内容だけに至って真剣に話してるつもりなんだけど…見えねぇか?」
「見えねぇよ!それに!わかんねぇとか!そんな曖昧なこと言ってんじゃねぇよ!そんな大事なこと聞かされる身にもなれよ!危機感ねぇよ!」
「なんだエレン。おれの言ったこと信じてんのか?」
「はっ!?なんだそれっ!全部嘘だって言うつもりか!?」
「だって疑ってたじゃねぇか」
「それは、そうだけど…。ってか今も疑ってるし。っつかもし俺がうっかり口滑らしたらどうすんだよ!」
「さぁ?」
「はぁ!?」
「だって本当にわかんねぇんだもん。"おれ"の規約じゃ一人にしか話せねぇけど、"人"の規約は知らねぇからなぁ。別に滑らしてもいいんじゃね?それでおれが死ぬってことはねぇだろうし。それはエレン、お前の好きにしろよ。まぁお前の話を聞かされた奴が信じるとは思えねぇけどな」
「…なんだよそれ…」


そう言ってうなだれる目の前のちっこい頭を、一度、ゆっくりと撫でた。
確かに、いきなりこんなことを言われても困るだろう。だけど言うならもう今しかないと思った。

この巨人と人が住まう世界では、目の前にいるやつが明日、いやこの後あっけなく死んでしまってもおかしくない世界だからだ。
おれに残された時間はたっぷりあるのに、目の前の人が生きれる時間ってのは本当に短い。
かくいうおれも、ここでは最後まで生きれるかどうかは本当にわからねぇけど。


「本当はさ、ミカサやアルミンにも伝えたかったんだけど…おれの口からは言えねぇからさ。エレン、お前が伝えてくれ」
「え?」
「あの二人なら、お前の言うこと信じてくれんだろ?」
「そう、だろうけど…」
「別に無理にとは言わねぇけど、おれにとってミカサもアルミンも特別な存在になってんだ。笑っちゃうだろ?あんなに欲のままに生きてたおれが、人を特別だって思うようになるなんてな。これも、あの時おれを救ってくれた人たちの所為なんだろうけど」
「…そこは所為じゃなくて、おかげって言うんだよ馬鹿」


おれ自身のことを聞かされてもなお、重ねただけの手が離れることはなかった。
重なり合ったところから伝わる熱だけを頼りに、人だろうが人でなかろうが、確かに生きているという実感を探した。

おれが元に戻るのにあと30年、それから死ぬまでに20年この世界で生きていく。
エレン、お前はその内のどこかできっと死ぬ。それがせめて、今日明日の話ではなく、もっと先の、よぼよぼのジジィになってからの話であるようにと。おれが人として生きる期間で死んでくれるな、と。
そう強く願ったことを今は言わないでおくよ。



とある人外のはなし

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