名字名前という名前も、その人物も、ボーダー内で知らない者はいなかった。
今やテレビやネットニュース、一般人から芸能人まで誰かのSNSなどで目にすることが多く、ボーダー内以外にもその存在感は増していく一方だ。

彼は本部に所属するB級隊員であるが、滅多に本部で見ることはない。
チームを組まずソロとして活動する彼のフィールドは三門市以外の全域といったところだ。
本来ネイバーのゲートは各地で展開されていたが、本部が設立してからは三門市の警戒区域にゲートが開くよう誘導している。しかし、そのセンサーをかわし三門市以外の各地で時々であるがゲートが開いてしまうことがあるのだ。
その場合、各地にある支部が対応にあたっているが、名字名前の任務はその無差別に出現するゲートの対応である。
一人の人間に各地を飛び回りゲートを抑えることができるのか、とみんなは思うかもしれないが、彼のサイドエフェクトがあればそれは実現するのだった。

ここまで言ってはなんだが、彼の持つサイドエフェクトはめちゃくちゃ特殊で特別なSE、ではない。
彼のSEは危機回避能力であった。
文字通り、危機を回避するためのSEである。
それとゲート出現とどう結びつくのか。
彼自身が"危機"と認識しているものが彼に降りかかるとき、そのSEは彼の脳内で警報を鳴らし回避させるのだ。
その回避率、ほぼ100%に近いと推定されている。
そんな彼のSEを逆手に取り、彼が"危機"だと認識しているネイバーのゲート出現予測値に、あえて彼を向かわせることでゲートが開いても即座に彼が対応してネイバーの侵略を防ぐのだ。

最初彼はものすごく嫌がった。
そりゃそうだ。危機を回避するためのSEを使って自らその危機に突っ込んでいかなければいけないのだから。
それはもうごねにごねた。
彼の好きなもので釣ろう作戦に迅悠一を巻き込んであらゆる手を使ってそれはそれは彼が一人で任務にあたれるように尽くせるだけ尽くした。

その内の一つが技術開発局の鬼怒田さんを筆頭に精鋭人が腕によりをかけて生み出した超小型高性能AIドローンだ。
もちろん名付け親の権限も与えた。
散々悩んだ挙句に安直な名前をつけたときはセンスを疑ったが、この話はまたの機会に掘り下げるとしよう。

この超小型高性能AIドローン、名字名前命名イースは本当に優秀な機械であった。
ドローンであるがゆえの飛行音を限りなくなくし、360度を映すことができるカメラは最新の4Kにも対応する超高画質。
夜間暗視モードやサーモグラフィーモード、さらにはハイパースローでの撮影も可能である優れものだ。
人工知能が組み込まれているがゆえに話すことができる。
最初は組み込まれた知識しか持ち合わせておらず、機械的なしゃべりに時々文法がおかしかったイースも、彼と四六時中話すことによって言葉のパターンや切り替えしをものすごい速度で学習していったのだった。
今や彼と漫才ができるくらい言葉が上達したが、彼に対しては何故か塩対応なため彼が一人でボケて一人でツッコミをする日々が録画されている。
そう。録画されているのだ。
彼が一人で三門市以外の場所で任務するにあたり、城戸指令が出したのは彼の監視だった。
もちろん逃げ出さないように、というのが名目であったが、今思えば城戸指令がわかりにくく可愛がっていた彼に対し、保護者的目線でイースを作らせたといっても過言ではない。

ここでようやく冒頭に戻るが、彼が何故全国的に有名になったかというと、このイースが撮影する映像が原因だった。
彼のツイッターで時々載せられていた数秒の動画が、ボーダー内の隊員の中で広がり、やがてそれは一般市民の目にもとまりあれよあれよというまに彼が動画を張り付けて流したツイートは瞬く間にすごい数のリツイートとイイネになったのだった。
一時期広報で仕事をしていたとはいえ、顔出しのまま拡散された動画の所為で彼の人気は若い子を中心に爆発的に広まったのだった。

そんな彼の状況にこれまた拍車をかけたのは広報担当である根付と、金銭面で主に活躍する唐沢の手腕だった。
すぐさま本部のHPに彼専用のページが作られ、彼に渡しているタブレットに動画配信アプリをダウンロードさせたのだった。
この動画配信アプリは若い子向けに用意された窓口でもあった。
リアルタイムで彼と会話ができる、というアプリであった。

ボーダーに所属する彼だが、全国各地を飛び回りその土地の人々を交流する様を配信で流しているとファンが定着し、彼個人に支援者が集まるのだった。
彼の人気により低迷しそうになっていた金銭的問題がほぼ解決に向かったのは記憶に新しい。
三門市を中心にボーダーの顔として活動する嵐山隊とは別に、全国的に顔が割れている有名なボーダー隊員など彼以外いないのだった。

そんな彼は嫌々全国各地に赴くのだが、足に使うものとして大型二輪バイクを愛用していた。
彼の趣味の一つであり、彼をこの任務につけるために我々が用意したご機嫌取りアイテムの一つでもある。

彼が涙ながらに「ホンダのCBR1000RR用意してくれなきゃ行かない…」と言った時はなんのことだかわからなかったが、深いため息をついた城戸指令が「用意させろ」と言い鶴の一声のように本部に納車されたのだった。
周りにいた職員の半数が何それ?と首を傾げる様子に、城戸指令が別の意味で「知らんのか」とため息をはきバイク雑誌を放り投げた。いやこれ知ってる人限られてると思うんですけど。

納車されたバイクを見て彼の表情がものすごくイキイキとなり「ちょっと慣らしてきます!」と言ってから三日間帰ってこなかったときは誰もが逃げたな、と確信したが彼は案外普通に帰ってきたのだった。城戸指令にしこたま怒られてたのは言うまでもないが。
しかし乗り慣れてるとはいえ、大型バイクに跨がって颯爽と走り去る彼のフォームを見届けた職員たちの何人かは大型二輪の免許を取る!と意気込んでいた。

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