ケータイの呼び出し音と一緒に表示される名前と、ふざけて設定した本人画像に思わず笑いそうになった。
「はいはーい実力派エリートでーす」
『もぉやなんだけどぉ〜〜〜』
何もかも無視して第一声がソレってほんとそういうとこだよ名前くん。
『そろそろ帰りたい』
「今どこだっけ?」
『広島』
「もみじまんじゅうよろしくー」
『やだよここ…SEとは別のものがここはダメだって言ってる…』
「この間も同じようなこと言ってたよ?」
『ここはマジでやばいんだって!!!』
今にも泣きそうな声で現状を嘆く彼は、本部所属のB級隊員、名字名前である。
危機回避のSE持ちであるが、それ以前に彼の特異体質として霊感がものすごーく強いらしいのだ。
"らしい"と表現せざるを得ないのは、霊感という曖昧極まりない力を他人に信じさせることが難しいからである。
ボーダー隊員であればあるほど、霊感の強さは関係ない、と城戸指令がぶった切っていた。
「んー…そうだなぁ…五日後かなぁ…」
『そんなにかかんの!?明日とかじゃなくて!?』
「三日以上はかかるって俺のSEが言ってる」
『まじ勘弁して…』
先ほども言ったように彼のSEは危機回避。
その回避率はほぼ100%と言われている。
そのため三門市以外で時々発生するゲートの対応策として彼のSEの能力を逆手に取り、彼一人で全国をまわりゲートが発生しては潰しを繰り返しているのだ。
ただ回避率がすごくても、危機がどこに現れるかという正確な情報はわからないのだ。
だからこうして俺に電話をかけ、彼の未来を視てゲートが出現するであろうおおまかな予測位置やゲートが現れるまでの日数を
初めて彼を見たとき背筋が冷えるのがわかった。
人当たりのいい笑みを携えたまま、しかし周りに誰も寄せ付けない空気があった。
そしてどういうわけか、俺のサイドエフェクトが全く機能しなかったのだ。
彼自身を見ても、まるでテレビの砂嵐を見てるかのように、視界がノイズで埋まっていた。
幾度となく彼を視界に入れても、その事実は変わることはなかった。
俺が未来を視ることができない人間が存在すること。
確かにそれも衝撃的だったが、そういうサイドエフェクトなんだろうと結論づけることで納得したつもりでいた。
だけど今、目の前にいる人物にも同じ現象が起きている。
人当たりのいい笑みを携えていた彼ではない。
黒いライダースーツとフルフェイスには鮮やかなライムグリーンの線が入っている。
たぶん換装したトリオン体なんだろうが、自分が記憶してる彼のソレではなかった。
けれど対峙した先にいる人間からは、かつて彼に感じた雰囲気があり、彼と同じようなサイドエフェクトを保有しているようだ。
ありえない、と脳が告げている。
なぜならば彼はすでに亡くなっているからだ。
近界民とは無縁の場所で、不慮の事故として彼は死んだのだ。
本当に彼の死んだ理由が不慮の事故なのかどうかは知る術がない。
だって彼を視たところで、砂嵐によって彼の未来はことごとく視えないのだから。
「名字…?」
思わず口からでた彼の名前に、ハッとなって口元を抑えた。
死んだ人間が生き返るわけがない。
何をバカなことを。
そう思案していると、黒いライダースーツの人が「そうだが?」と答えた。
「…は?」
「確かにおれも名字だが、あなたが思い描いてる名字じゃない」
「えっと…」
「知ってるはずだ。名字#name3#は死んでこの世にはもういない、って」
「!」
防衛任務が終わり本部の玄関に出ると、ゾエとカゲが一台のバイクを囲ってあれやこれやと話していた。
穂刈と顔を見合わせて示し合わせたかのように同じ方向へ進むと、イキイキとした顔でカゲにバイクを語るゾエがいて、カゲもカゲで嫌がる様子もなく色んな角度からバイクを見るためぐるぐると回っていた。
「二人とも何してんだ?」
「おー荒船と穂刈」
「何?バイク?誰の?」
「それがわかんないんだよねぇ〜」
「ってかクソかっけぇなコレ」
「あーバイク免許とりてぇ〜」
「な〜」
「これは大型二輪だからまずは中型からとらないとこれは乗れないよ」
四人で話してると思ったら後ろからしれっと割り込んできた声に振り向くと、エンジニアの寺島さんがいた。
「ども。お疲れ様です」
「お疲れ様」
「寺島さんもバイク好きなんですか〜?」
「いや俺は別に…北添は好きなのか?」
「乗ってますんで〜!」
「へぇ」
一見興味なさそうに相槌を返す寺島さんだが、バイクのそばから離れようとせず、なぜか俺たちの会話を静かに聞いていた。
そのことに俺たちが気付くのも時間の問題で、みんなの視線が寺島さんに向いたとき、その視線の意味を察したのか寺島さんは言いにくそうに口を開いた。
「あー…帰りたいんだけどお前たちがここから去らないと俺は一生帰れないんだよな」
「え!あ!すみません!これ寺島さんのだったんですか!」
「いや違うけど」
「「え?」」
「持ち主はさっきからあそこでお前たちが帰るのを今か今かと待ってる奴な」
そういってくいっと親指で後ろを指す先を四人揃ってみると、本部の入り口付近にある街路樹の影からこちらの様子をうかがう黒いライダースーツを着て黒いフルフェイスかぶった奴が慌てて街路樹に体を隠したところだった。
何あいつ…。
「持ち主ならなんでこっち来ないんだよ」
「…あいつはまぁ、ちょっと特殊で」
「ん?黒いライダースーツに黒いフルフェイス?もしかして噂のB級ライダー!?」
「なんだそれ?」
「知らないの!?」
興奮気味に話すゾエに残りの三人は首をかしげる。
B級ライダー?聞いたことねぇな。
「SNSでじわじわ拡散されてるボーダー隊員のことだよ!バイクで颯爽と現れてはゲートから出てくるトリオン兵をぶった斬る謎のライダー!実在したなんて!」
「んな大袈裟な」
「だってランク戦にもソロ戦にも一切出てこないし同期が誰かもわからないし何よりあのライダースーツ姿がトリオン体だから素顔も知らないし!」
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