さりげなく団蔵くんに聞いた清八さんの情報。忍術学園に来た日は必ずといっていいほどあの茶屋で休憩をするのだという。だから仕事の合間に待っていたのだが…なかなか来ない清八さんにしびれを切らしもう帰ろうかと思っていたら、外から清八さんの声がした。
何事もなかったかのように清八さんの前に出たけれど…怪しくなかっただろうか?変に思われていたらどうしよう。最後の発言、やっぱ言わなきゃよかったかもしれない。でも最後の私の言葉の意味、清八さんのことだから絶対わかってなかったと思うんだよね。なんて、あれこれ悩んじゃってすっかり乙女になっている私の隣で、利吉君が怪訝な顔でこちらを見ているのに気付いた。

「何かあったのかい?」
「あ、わかる?」
「まぁ…顔を見れば…」
「利吉くん相変わらず忍者だねぇ」
「君もだろう」
「私変かな?いつもとちょっと違ったりする?」
「あきらかに変だね。でも気持ち悪いのはいつもと変わらないから安心して」
「利吉くん冷たいー。いつからそんな風になっちゃったのかなぁ?」
「さぁ。出会ったときからじゃないかな」
「そうだよねぇ〜!私たち馬が合わないのに仕事はしやすいんだから困るよねぇ〜」
「皮肉なもんだな」
「ねー」

木の上からある家を見張りながら矢羽根で話す私たち。あの屋敷にある火薬壺の数と、兵士の数、石火矢やカノン砲などの有無を調べるべく乗り込もうとしているのだけれど…、私たちって本当に緊張感が無い。それでもやるべき仕事はちゃんとこなしてるからお互い文句は言わないんだけど。
利吉くんとはよく行動を共にするけれど、利吉くんに対して一切恋愛感情を抱いたことはない。何故って、利吉くん怖いしすぐ怒るし容赦ないしキツイし無愛想だし冷たいし、そのくせ忍務になると表面上の恋仲を演じるときは吐きたくなるほど甘い笑顔するし。私あの顔苦手なんだよねぇ。顔には出さないけど。
でも利吉くんも同じだと思う。私の醜いところも駄目なところも全部知ってる。利吉くんに色を使うことはないけれど、敵に使ってるところなんかしょっちゅう見られてるし。そういう作戦だからしょうがないし別にもう慣れたからいいんだけど。利吉くんは私のこと女として見てないと思うし。だけど何を勘違いしてるのか、山田先生は勝手に私を利吉くんの嫁にしようと考えてるし。のーせんきゅーだからね。

清八さんは私が利吉くんと同じフリーの忍者ってことを知ってるし、何かと仕事を頼むことも多いから接点はあるんだけど…清八さんって私のことどういうふうに認識してるんだろう?やっぱりくの一は汚れてるって思われてるのかな?人を殺したりする冷たい人間だっていう目で見られてるのかな?だったら…やだな。こんな感情、私忍者失格だなぁ。

「いい加減気持ちを切り替えろ。出来ないならこの仕事から降りてくれ」
「言ってくれるじゃん」
「足手まといになるようなら付いてくるな」
「なりませんって。これでも一応忍びですから感情を切り替えることくらいどうってことないっての」
「じゃあさっさと集中しろ。そんなんじゃ流れ弾に当たって死ぬぞ」
「その流れ弾って利吉くんが打つ火縄銃の?」
「お。よくわかったじゃないか。偉い偉い」
「…利吉くん。君が死んでよ」
「君が先に逝けば死んであげるよ」
「それ私が利吉くんの死に顔見れないから不利じゃない?」
「喋ってないで行くぞ」
「あ、流した。流したよこの人」

利吉くんの言う通り、足手まといにはなりたくないのでさっきまで考えていたことを必死に頭の隅に押し込める。
忍者としては失格かもしれない。色に負け欲に溺れてるのだから。けれど一人の女としては、まだまだそこらへんの女子(おなご)と肩を張れるくらいだと思っている。町娘のように、もう純白ではないけれど。
清八さんがどう思っていようとも、私は清八さんに恋する女の子でありたいのよ。



硝子に映える澄んだ白

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