あの茶屋で名前さんに会ってから数週間が流れた。あの日以来名前さんには一度も会っていない。頻繁に会う仲ではないし、約束を取り付けて会う仲でもない。どこかで元気にしているのだろう、と、この寂しい気持ちが薄れかけた頃にふらっと会えたりすることを願って。そう思っていたけれど、忍術学園へ行ったときに若旦那から聞かされた内容に胸が痛くなるほどの衝撃を受けた。
「利吉さんと一緒の忍務に行ってたんだけど、なんか凄い怪我して帰ってきたんだ。理由を聞いても何も言わないし…利吉さんも教えてくれなくて。今金楽寺で療養してるらしいんだけど…」
自分が知らない事実に憤りを感じた。凄い怪我って?療養しなければいけないほどの?どうしてそんな…利吉くんがついていながら!いない人たちに怒りを示してもどうにもならないけれど、とりあえず金楽寺への道を急いで駆け抜けた。
「名前さん!」
「あんれ。清八さん何でここに?」
「名前さん!その傷!大丈夫なんですか!?跡が残るかもしれないのに!もっと自分の体を大切にしてください!」
「ちょちょちょ、清八さん落ち着いて。私はこの通り大丈夫ですから。それよりもどうして私が此処にいることを知ってるんですか?あ、もしかして団蔵くんから聞きました?」
「…ッ…はい…、利吉くんと一緒の忍務でそうなったと…」
「利吉くんは関係ないですよ。確かに彼とは同じ忍務でしたが、この傷は私の勝手な行動が招いた結果ですから…」
「そんな…それでも…」
「いやぁ…利吉くんにはこっぴどく叱られちゃいました。死にたいのか!って」
「…笑い事じゃありませんよ名前さん」
頭やら首やら腕やら、至るところに見える白い布。服で隠れているからわからないけれど、きっと体にも巻かれているであろうそれに、心が切なくなった。笑って大丈夫だなんて言う名前さんが嫌だった。そんな見え透いた強がり…忍者でない自分にまで見抜かれるなんて、よっぽど傷が痛むんだろうと思った。
「本当に、笑い事じゃありません!私がどれほど心配したと思ってるんですか!」
「え?心配してくれたんですか?」
「当たり前です!あの茶屋以来ずっと会ってなくて…久々に名前さんの名前を聞いたと思えば怪我をして療養してるだなんて!あんまりです!」
「い、いやぁ…知らせようかと思ったんですが下手に心配されるの慣れてなくて…」
「こんな…顔にまで傷が…」
「何言ってるんですか。清八さんとおそろいですよ?」
「女性なんですからもっと慎重に行動してくださいよ!」
「あー、こんな傷残ったらお嫁にいけないですもんねぇ」
「そのときは私が貰います!」
「え」
自分が今何を言ったとか、勢いに任せて抱きしめてしまったとか。後になって思い出して一人勝手に自己嫌悪に陥るのだろう。だけどその時は必死だったんだ。名前さんの顔が見たくて、名前さんの声が聞きたくて、名前さんに会いたくて。私はいつの間にかこんなにも名前さんのことを好いていて、今になってその気持ちが抑えられなくて。
「清八さん…私、汚いですよ?」
「どこがですか。こんな綺麗な人いませんよ」
「またまた…お世辞が上手いですね」
「お世辞なんかじゃないです。名前さんは綺麗です」
「うーん…そういう意味じゃなくてぇ…」
「わかってます。貴女の言いたいことはわかってますから。全部ひっくるめて、綺麗だと言ってるんです」
忍者のことはよくわからない。くの一のことはもっとよくわからない。だけど、名前さんのことだけはわかっていたい。彼女の、一番の理解者になりたい。
「名前さん…貴女が無事でよかった…!本当に良かった…!」
好きです。好きなんです。言葉にできないけど…貴女が好きです、名前さん。
小さく震えた手は私の服を強く掴んだ。泣いているのだろうか、耳元で聞こえる掠れた声に、彼女が生きているという実感が沸いた。
長く垂れた黒い髪をすくって、安堵の息とともにそっと唇を落とした。
魅惑の髪に口づけを
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