エレン・イェーガーが攫われたっていう情報が耳に入って、わたしはまたか、という呆れた意味で深いため息をついた。そう、彼が攫われるのは別に珍しいことじゃない。彼が巨人になれるという事実が広まってからというものの、こういった事件は後を絶たないのだ。
その都度憲兵団や調査兵団の面々が必死になって彼を取り返そうと捜索し、だいたいいつもわたしが先に見つけちゃうことがパターン化してきている。

こうなることが多発するから彼にも再三注意をしているし、もっと危機感を持てと兵長に怒ってもらったのも記憶に新しい。しかし彼のすぐカッとなったら周りを見失う性質が仇となり、コロッと捕まってしまうのだ。
ほんと、学習能力がないというかなんというか。毎回こうやって捜索に駆られるわたしたちの身にもなってもらいたいものだ。

わたしが溺愛している相棒の遠吠えが聞こえ、彼を見つけたという合図が伝わった。さすが、こういう人探しに嗅覚の優れた相棒は本当に役に立つ。
だからだいたいわたしが一番に見つけて乗り込むのだけれど…、今回は近くに兵長がいたので後のことは全部彼に丸投げした。だって、兵長が彼の面倒を見ているのだからそこはほら、わたしの出番じゃないし。


「オレが正面から行く。お前は回り込め」
「え!」
「なんだ」
「わたしもですか?」
「当たり前だろう。なにオレ一人にやらせるつもりでいるんだ」
「兵長なら余裕でしょ?」
「敵の数がわからねぇ以上一人で突っ込むワケねぇだろ。ぐだぐだ言ってねぇで手伝え」
「えー…」
「…あいつが死んでもいいのか?」
「………」
「………」
「………、10秒後に、あの小屋の中で落ち合いましょうか」
「しくじるなよ」
「誰にモノ言ってるんです?」
「そりゃお前のほうだクソが」


そうして囚われのお姫様を救うべく、わたしと兵長の即興コンビネーションがうまくいき、彼を攫った一味は全滅だ。もちろん殺すつもりはなかったけれど、うっかり殺しちゃった人もいるもんでそのへんはまぁ、ご愁傷様って感じ。
あとの処理は憲兵団に任せるとして、兵長が彼の無事を確認しているのを眺めながら、わたしは彼の居場所を教えてくれた相棒へご褒美を与えていた。毎度のことながらほんとありがとうございます相棒様。


「あ、あの!」
「………」
「あの、いつも、ありがとうございます。その、すみませんでした…オレ、その…」


目の前でものすごく申し訳ない顔をしながらビクビクとわたしへと話しかける彼に、笑って無事だったからいいのよ、なんて言える心情は一欠けらも残っていない。
彼の数歩後ろで興味なさそうにわたしたちの様子を見る兵長の視線を感じながら、わたしは盛大なため息をついてやった。


「あのさ、か弱いヒロインじゃないんだからさ、もっと自分の身は自分で守ってよ。そのくらいの力はあるでしょうが」
「…はい」
「曲がりなりにも調査兵団でしょうが。そんなホイホイ捕まっちゃって、もう一回訓練兵からやり直せば?」
「…ごめんなさい」
「あんたわかってんの?巨人が絡んでないにしろ、あんたの所為で今日も誰かが死んでんのよ?」
「え…」
「え、じゃないって。あんたを助けるためにわたしが殺したの。あの一味の何人かをね。もちろん、最初から殺すつもりで乗り込んだわけじゃないけどさ、勢いつけすぎてうっかり殺しちゃうことだってあんのよ。立体起動つけてんのよ?スピード出て刃振り回してたらそりゃ一人か二人かは殺しちゃうでしょうが。それは確かにわたしが殺したんだけど、元を辿ればあんたが捕まるから悪いのよ」
「………、オレ…の所為…」
「そ。あんたの所為で今日も人が死んだ。あんたを守るために誰かが犠牲になった。直接手を下していなくてもあんたもわたしと同罪よ。人殺し。この意味わかる?」
「ひと、ごろし…」
「そう。人殺し。ちゃんと理解して。あんたが今こうして生きていられるのは、あんたのために誰かが死んだから。あんたのために、誰かが手を汚したから。もっとちゃんと理解して。自分の立ち位置、周りの環境、視線、意図、心情。そのクソちっせぇ頭フル回転させて理解しろ!そして自覚しろ!お前の存在価値を!もっと体に刻まんかこのクソガキが!!」


ビクリ、と目に見えてわかるほど彼は体を揺らしたかと思えば、死にそうな顔で小さく、すみませんでしたと謝罪した。その言葉を簡単に信じられるほど、わたしは彼を信用していないし、また何日かしたら同じことを繰り返されるんだろうなって思った。その度にわたしはこうやって彼に怒って、それでも助けるために相棒を使って、一番に駆けつけるんだろう。

どうしてって聞かれても、わたしにだってわかるわけない。けれど彼に怒っている間、兵長が口を挟まなかったのは、きっとわたしの根本を理解していたからだろうと勝手に思っている。じゃなきゃ、手伝えと言われたときに、あんなこと言わない。


"あいつが死んでもいいのか?"


よくないに決まってんだろうが。なんでかわからないけれど、その気持ちに嘘偽りはない。それを彼に言っても、絶対信じてくれないだろうけど。


「またこういうことがあったら覚悟しとくのね。真っ先に見つけ出して罵声を浴びせてあげるから、せいぜい死なないようにもがいていればいい」


刃についた血を振り落して、ストックホルダーへと直す。立体起動を使うのも面倒くさいので憲兵団が乗ってきた馬車で帰るとしよう。もちろん、相棒も一緒に乗り込んで。



すきでもきらいでも大嫌いでもないけど、きみには死んでほしくない
死なせないために何度だって助ける行為に愛はない。

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