「サンジくんって、結婚願望あるの?」


唐突すぎるわたしの話に、驚きはするものの嫌な顔一つしないサンジくんはじゃがいもの皮をするすると向きながらそうだなァ、と考える。エプロンが大変お似合いですよお兄さん。


「まァ、ないとは言い切れないな。いつかはって思ってるけどそれは今じゃないし。そういうナマエちゃんはどうなんだい?」


そりゃそう聞き返しますよね。そんなことを思いながらそうか、サンジくんにも一応結婚願望ってものあるんだ、なんてちょっと意外だったりもした。

この一味にいるといつ結婚できるかわからないから、みんなそういう概念を初めから持ってないものだと思い込んでいたし。でもそれなりの年齢になったらやっぱり考えちゃうものなんだろうか。ブルックは…いやいや、もう遅いなんて失礼な考えをぶんぶんと振り払った。


「ナマエちゃん?」
「え?あぁ、えっと、そうだなぁ〜昔はすごくあったけど今はそうでもないかなぁ〜」
「ちなみに理想の男性像とかあったりするのか?」
「理想の男性像?」


そういえば結婚はしたいって思ってたけど、相手のことはあんまり想像したことなかったな、なんて思いながらとりあえず目の前にいるサンジくんをじっと見てみる。

顔は、カッコいいと思う。凄い上から目線になるけどわたしはサンジくんの顔嫌いじゃないなぁ。

背も申し分なく高いし。フランキーやブルックまでいくとちょっと高すぎるからサンジくんくらいで丁度いいのかもしれない。ってか足長っ!黒いパンツ履いてるからってのもあるけど、いやいや履いてなくてもサンジくん足長い。そういえばロビンもナミも綺麗な足してるよなー。羨ましい。

体つきはゾロほどごつくもないし程よく筋肉ついてそう。タバコのにおいはちょっと苦手だけど、サンジくんからするそれはあんまりイヤじゃないし。中身もルフィほど空気が読めないわけじゃないし、ウソップほどバカじゃないし。

そうやって改めてサンジくんという人間を見るとかなり良い人材なんじゃないかって思えてきた。凄い人が船に乗ってるよお母さん!

あ、でも一つだけネックになるのが料理の腕前だなぁ。美味しすぎるから奥さんになる人大変だ。

まぁそれはサンジくんがしたくてしてるみたいだから料理は任せていいと思うんだけど、こう、世間の目っていうか、女のプライド的なものも若干関係してくるわけで。素直にじゃあ全部任せますって言えたらいいけど。

いつも島に降りたら食材探しながら可愛い子も探してるし、船にいてもわたしみたいな子にでも凄く紳士的で女性最優先だし。

でも旦那さんがフェミニストってヤじゃない?あぁでも結婚したら奥さん以外目移りしなさそうな気もするけど、実際どうなんだろ?

話の途中で終わっていることなどすっかり忘れてサンジくんのことを考えていると、なんだか彼の様子がおかしいことにちょっと気付いた。

ちらちらとわたしを見ながらなんだか妙にそわそわしているというかなんというか。っていうかサンジくん、いつまでじゃがいも剥いてるの?もうなくなりそうなんだけど。


「サンジくんなんか顔赤くない?」
「え!そ、そうか!?キッチン熱いからな!」
「じゃがいも、もういいんじゃない?」
「ああッ!やりすぎたッ!」


もうすぐで使い終わりそうな消しゴムくらい小さくなってしまったじゃがいもを泣きそうな目で見てるサンジくんに、ごめんね、と謝ればすぐにナマエちゃんは悪くないよ!と返ってくる。さすがフォローもしっかりしてらっしゃる。


「理想の男性像ってよくわからないな。そこまで色んな人見てきたわけじゃないし、深く関わったことのある男性なんてこの船に乗ってる人たちくらいだし」
「そ、そうか…」
「あ!でもあの人はカッコいいなって思った!」
「だ、誰だそいつは!?」
「ほら、ビビの国にいた飛ぶ人!」
「飛ぶ人…?あ!ペルーのことか?」
「そんな名前だっけ?」
「カッコいいって思ってた割にはうろ覚えだなァ」
「だってあんまり話してないし、向こうもわたしの名前なんて知ってるの?って感じだし」
「なのにカッコいいって?」
「うん。だって飛べる!凄くない?」
「そこ!?」


新しいじゃがいもを今度こそ!と、せっせと剥きはじめたサンジくんがなんだか苦笑いをしているけれど、そんな姿も様になってる。凄いぞサンジくん!


「サンジくん、いつになっても構わないから結婚するときは絶対に連絡頂戴ね!」
「え!」
「だってサンジくんの結婚相手とかちょー気になる!」
「な、なんで気になるのか聞いても?」
「一流のコックで女の子大好きなサンジくんが生涯を共に過ごす一人を決めるんだよ?そりゃ気になるでしょ〜。あ、なんかそれすごく気になってきた!すごく気になってきたよサンジくん!!」
「そんなに!?」
「ねぇ今いないの!?候補いないの!?」
「今!?」
「あ!でもやっぱ言わないで!今聞いたらショック受ける!」
「ええ!」
「今はわたしたちのサンジくんだから、まだ誰かのものになってほしくないな!あー、でもロビンやナミなら…いやいや!それでもなんかヤだからまだ言わないで!」
「言わないでって、今はその、いないんだけど…」
「ほんと?よかったぁ〜!」
「っ…!」
「あれ、サンジくん。じゃがいもまたちっさくなってるよ?さっきより小さいけどそれ使える?大丈夫?」
「ああッ!またやっちまった!」
「なんかわたし、もしかしなくても邪魔してる?」
「いやッ!断じてそんなことはないッ!」


そうは言うけどサンジくん、女の子には優しいから鬱陶しくても出てけなんて言わないしなぁ。

そういえばさっきから全然作業進んでないし、じゃがいも剥きすぎだし。何に使おうと思って剥いてるのかは知らないけれど、あんなに小さくなったじゃがいもを使える料理が果たしてあるのだろうか?いや、サンジくんのことだからそこは食材を無駄にしないで何かに使うだろうけど。

丁度外からわたしを呼ぶナミの声が聞こえて、わたしはようやくここから出るタイミングを見つけた。

それを理由にしてわたしはサンジくんにもう一度だけごめんね、と告げてキッチンを出ようとしたんだけれど。ふいに掴まれた腕により動きが止まったわたしは、その止めた張本人を見た瞬間、わーサンジくんやっぱカッコいい、なんて漠然と考えていた。


「お、おれじゃ…!」
「?、おれじゃ?」
「………ッ、あー…いや、その…」
「サンジくん、後ろのお鍋、沸騰しすぎてなんかこぼれてるよ?」
「え!?ああッ!クソッ!」


鍋の火を消しにいくために掴まれていた腕が放されて、これを機に背中を向けるサンジくんにまた夕飯にね!と言ってそそくさとキッチンを後にした。

焦ったようにわたしの名前を呼ぶサンジくんの声を聞こえなかったことにするわたしを許してね。



ジャムが足りない
わたしにはまだ、甘すぎない日常がちょうどいい



サンジくんがあの時なんて言おうとしたのか、わたしは少しだけわかっていた。

だってあんな風に顔を赤くして、とても真剣な目で、でも反応を見るのが怖いと思ってる視線で気付かないわけがない。

掴まれた腕からサンジくんの鼓動が伝わってきそうで、わたしの心臓もいつの間にかどくどくと早くなってて。あぁもう!こんなはずじゃなかったんだけどな!

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