生まれ変わったら男の子になりたい。

他愛無い会話の中や、ふとした時、そして今、自分が死ぬ瞬間でさえもわたしはそう思った。

男の子に生まれ変わったらやりたいことがあった。この時代でできなかったことを全部、あいつらと一緒にやれたらと思った。

生まれ変わった先であいつらと一緒とは限らないけど、もし一緒になれたなら、もし争いのない時代に生まれ変われたなら、今度こそこんな悲しい思いしなくて済むよね。

わたしを刺した忍びはすぐに背を向けて歩き出した。わたし、まだ息があるのになぁ。そんな簡単に背なんか向けちゃって、甘く見られたものだなぁ。いや、違うか。きっと甘やかされてるんだ。


「…、三郎…」
「………」
「止め、ささないの…?」
「………」
「殺してくれていいのに…、ッ中途半端に生かされるほうが、辛いって知ってるでしょ?」
「………」
「それとも、苦しんで野垂れ死ねって?…ははっ…酷いなぁ、もー…」
「………」
「三郎………、叶えてくれなくてもいいから、最期に一つ、我儘を聞いてくれる?」
「………」
「わ、わたしが…、息絶えるまで…、そこにいて欲しい…な、って「さっきから黙って聞いていれば何を訳のわからんことを。俺はお前が言う男ではない。勘違いするな」


知らないその男が振り返りざまに飛ばした苦無を避ける力は残ってない。

的確に狙いを定めて、外すことのない正確な軌道。やっぱり三郎は天才だね。真っ直ぐにわたしの心臓へと吸い寄せられるように迫る刃に、素直じゃないなぁと笑った。

ありがとうありがとうありがとうありがとう、………だけどやっぱり少し、寂しいや。




生まれ変わったら、また逢おうね



ぐったりと動かなくなった彼女を見て、私は酷く胸が苦しくなった。とめどなく流れていく赤い血が、彼女の手を伝い土を染めていく。

私が殺した。紛れもなく、それは動かぬ事実として私の脳裏に残る。私が彼女を殺した。殺したんだ。この手で。

出会ってすぐに彼女だとわかった。癖のある手裏剣の投げ方がいまだ直されていないことに少しだけ笑えた。

彼女はいつから気付いていたのかはわからないが、最後の最後で私の名を呼んだ。三郎、と、懐かしい声色は一瞬であの頃の記憶を呼び戻す。

ああ、なぜ一撃で確実に仕留めなかったのか。なぜ少しだけ生きる猶予を与えたのか。私らしくない。こんな情けをかけるなど、いや、これは情けなんかじゃないな。これは私の我儘でもあり、少しの希望でもあり、愛情だ。

猶予を与えたのは最後の反撃で私を殺すのが彼女でいてほしかったから。彼女がそんなことをするはずがないと頭のどこかでわかっていたくせに、私は狡い人間だ。

最後まで別の男を演じる私を笑うだろうか?結局は止めをさす私を恨むだろうか?迫りくる死に怯え、生きようともがくのだろうか?

知りたい。彼女がどんな顔をするのか、知りたくてしょうがない。そう思って振り返って、彼女を殺すことよりも後悔した。振り返った時点で、これは私の負けなのだ。

世界の始まりかのように美しく笑う彼女は、死を恐れてなどいなかった。ありがとう、と、聞こえるはずのない声が聞こえた気がした。けれどほんの一瞬、情けなく下げられた眉と目尻が、彼女の表情を変えた。

私以上に狡い人間がここにいた。

じわりと心の奥そこから滲みだす何かが抑えきれなくて、渇ききったはずの涙腺を再び潤すときが来るとは夢にも思わなかった。

私の世界に、一つの幕が下りた。

ここではないどこかで、また新しくその幕が上がることを祈って、私は彼女の亡骸に口付けを落とす。柔らかいが温度のないそれに、酷く吐き気がした。

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