わたしが数ある人の中から彼女を見つけ出したのは、別に全然運命とかそんな綺麗なものではなくて。
彼女が有名だったから、としか言いようがない。もちろんその言葉に、良い意味など存在しないのだけれど。
沈む月の上で
女子の妬みの的。それが一番わかりやすい表現だと思う。キセキの世代と称した人たちが集まるバスケ部で、同じ輪に入ることを許されたただ一人の女の子。マネージャーなんて彼女のほかにいくらでもいたけれど、彼らと同じ土俵、同じ目線で物事を見れるのは桃井さつき、彼女だけだった。
男にちやほやされていい気になっているだとか。ちょっと顔が良くて胸もでかいからって調子に乗ってるだとか。あんな仕事誰にでもできるだとか。彼女の努力も知らずに、自分たちの羨望と嫉妬で彼女のことを見下す周りをただ見ているだけだったわたしは、彼女に対して何の感情もわかなかった。
ただぼんやりと、大変だなぁなんて。そんな簡単な一言で片づけられるほどでしか、彼女の苦労を理解しようともしなかった。
だけどどうしてか。そんな周りの評価に振り回されることもなく、ただひたすらに彼らのサポートに徹する彼女の行動を、いつしかこの目が追うようになった。
気付けば彼女の姿を探して、どんな表情をして、どこへ行って何をしようとしてるのか、それが知りたくなった。だけどすぐに胸が痛んだのは、彼女のふとした時に見せる悲しそうな表情だった。
仲良さげに歩いて楽しそうにしゃべる女の子たちとすれ違うとき。体育の授業で誰かとペアにならなきゃいけないとき。放課後何処へ行こうかと盛り上がっている話を聞いたとき。下駄箱の前でなかなか動かないとき。
一番胸が痛いのは彼女のほうなのに。わたしが感じるズキズキとした痛みに、なんて名前をつけたらいい?
それでも彼女が泣いているところを見たことがなかった。いつも笑って、彼らを支えようと頑張っている彼女を見て、わたしの心が揺さぶられたのは間違いない。
この人の本当の笑顔が見たい。
幼いながらにも、そんな感情が芽生えた。
だから、あの時チャンスだと思った。あの朝、彼女と下駄箱で鉢合わせたとき、自分を見てもらえるチャンスがきたんだって思えた。
そうして必然的に彼女の友達の位置を獲得したわたしの目は、更に彼女しか見えなくなった。このまま彼女も、わたししか見えなくなればいいのに、なんてね。こんな感情持つなんて、おかしいよね。
「名字さん、ちょっといいっスか?」
だからなのかな。望んでもない展開に、わたしの顔が歪んでいく。
それを見て、目の前の彼が一瞬驚いた表情を見せたけれど、すぐににこりと笑った。あ、それ完全な作り笑いだね。
「わたし、君と話すことがないんだけど」
「そう言うと思ったっスよ。でもオレにはある」
「だけど、わたしにはない」
そう言って立ち去ろうとしたとき、彼の口から出たのは、わたしの足を引き留めるには十分すぎるほど短い言葉だった。
「桃っちのことでも?」
彼も彼女を悲しませた元凶の一つだと、わたしの脳が警報器を鳴らす。睨みつけるように振り返った先では、誰にでも振りまいているあの無機質な笑顔が張り付いていて。
ああもう、吐き気がするわ。
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