あっけないと思った。食べられている友人を茫然と見つめながら、単純にそう思った。
何日か前に好きな人ができたってはしゃいでた気がする。相手の人の名前を聞いたけど、聞き覚えのない名前だった。彼女曰く、わたしもその人には会ったことあるし、言葉も交わしていたという。
にわかに信じがたい話だったけれど、友人である彼女がそういうのであれば、きっと間違いないのだろう。けれどわたしは覚えていないし、思い出すこともなかった。

そういえばさっき、誰かが来た気がする。だって目の前で友人を食べていた巨人が、今じゃ地面に這いつくばって死んでいるのだから。
蒸気をあげながらその肉体を消していく巨人の体内から消えずに残った死体の中に、さっき食べられていた友人を見つけた。呼びかけようとして、やめた。どうせ聞こえないし、返事だってしない。名前を呼んでも、もう意味がないのだ。

「おい」
「?」
「こんなところで突っ立ってんじゃねぇ。巨人のエサになりてぇなら話は別だがな」
「あぁ、すみません…」
「………」
「…なにか?」
「感傷に浸ってるヒマなんかねぇんだ。そういうのは後にしろ。動けるならさっさと援護しに行け」
「そう、見えましたか?」
「なんだと?」
「や、何でもないです。援護に向かいます」

あの巨人を倒したであろうリヴァイ兵士長の横をすり抜け、いまだに巨人と戦っている後列へと向かった。
そのあとはひたすらに飛んでは削いで、飛んでは削いで、ガスがなくなるまで手あたり次第駆逐して、撤退の鐘が鳴るまでわたしは刃を振りかざした。帰りのガスがなくなったから、そこらへんで死んでた兵士のガスを頂戴して、ようやく救護班が駐在するテントへと辿り着いた。
そこに行くまでに色んな人がわたしの肩をたたいたり、背中を押したり、髪を撫でたりした。よくやった、凄い、一気に討伐数をあげたな、とか言っていた気がする。わたしはそんなに褒められることをしたのだろうか?よく、わからなかった。

「おい」
「?」
「お前がナマエだな」

救護テントの中、一通りの治療が終わってドクターが次の患者を見に別のテントへと移動した。備え付けられた簡易ベッドの淵に座るわたしを見て、わたしの名前を言ったのはリヴァイ兵士長だった。今日はよく会うなと思った。

「そうですけど、なにか?」
「お前宛だ」

そういって投げられたものがわたしの腕に当たって落ちた。
視線だけやると、そこには封筒があって。どうやら手紙のようだった。

「誰からです?」
「回収された死体が持っていた。中は見てねぇ」
「そうですか」
「………」
「?、まだなにか?」
「そんなクソ酷ェ顔するくらいならいっそ泣いたほうが清々しいな」
「ソレ、あなたが言います?」
「あ゙ぁ?」
「すみません、口が滑りました」
「てめぇ…」

封筒を破って中の紙を出せば、そこには紙一面にびっしりと文字が埋まっていた。これは読むのが一苦労だと思いながら、左から右へと目を配らせて少しずつ下へと下がっていった。そうしてほどなくしてその手紙は読み終えた。
わたしがこの手紙を読み始めてから読み終えるまで、リヴァイ兵士長がずっとここにいたのが驚きだ。まだいたんですか、と言いたくなるのをぐっとこらえて、読み終えた手紙を封筒へ戻した。

「なんて書いてたんだ」
「好きな人のことと、わたしのこと、それからこの先のことです」
「…そうか」
「リヴァイ兵士長」
「なんだ」
「こういうときって、泣いたほうがいいんでしょうか?」
「………さぁな」
「よく、わからないんです」

友人の死を理解していないわけでもない。彼女は死んだ。巨人に食われて死んだのだ。わたしはそれを見ていたのだから、理解していて当然だった。
助けようとは思わなかった。だってもう片腕食べられていたから、じきに全部食べられるだろうし、今助けてもきっとそれは意味がないと思ったから。だから見届けた。彼女が息絶えるまで、わたしはしっかりと見届けた。

「見殺しにしたワケじゃないんです。だって、彼女が教えてくれた好きな人も、彼女の下で死んでましたから。それなら彼女も早く死んだほうがいいと思いました。この世界で幸せなんて言葉や表情はとても似つかわしくない。ならばせめて、はやくこの世界から追い出してあげたかった。ここじゃないどこかで、新しく生まれ変わった彼女と好きな人が、脅威に脅かされることのない場所で、幸せの言葉が似合う世界で、共に生きていけるのなら、早くそこへ連れて行ってあげたかった。だから助けるべきじゃないと思った。あの巨人が早々に彼女たちを殺してくれてよかったって思った。彼女の生き方は、ここじゃないほうがいいと思ったんです」
「そうか」
「リヴァイ兵士長、あなたもわたしも、この世界にはうってつけですね」
「そうだな。ならお前も、これからやるべきことはわかってんだろうな?」
「わかっていますよ。この命尽きるまで、文字通り死ぬまで、巨人を駆逐します。人類の存亡とか栄光とか、そういう肩書きはいりません。人類最強の称号も、今にあなただけのものじゃなくなると思うので」
「言うじゃねぇか」
「これ、ありがとうございました。もういらないので、持っていた人に返してきますね」
「………お前も」
「え?」
「自分が思ってるほど、お前もここには似つかわしくねぇぞ」

そう言って、テントから出ていったリヴァイ兵士長は、その口元に薄い笑みを浮かばせていた。その言葉、そっくりそのままお返しします。


この世界から解放してあげたのだから、泣く必要なんてなかっただけなんだ。


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