調査兵団に入って二度目の壁外調査のときだった。
どいつもこいつも俺を生かそうと自ら犠牲になって命を投げていきやがる。
巨人に食われていく仲間だったものに背を向けて、生き延びるために馬を走らせる。
喉まででかかっていた嘔吐感をぐっと抑え込んでひたすら走った。
視界の端ではためく緑の切れ端になんとも言えない虚無感を感じた。

壁は見えているのにそこまで行くのがこんなにも遠い。
所々にある木々を確認しながら、いつどこで巨人が襲ってきても対処できるように、どこか冷静な自分がいた。
いや、これは冷静というか、冷徹のような気がした。

だからだろうか。罰が当たったんだと漠然と思った。
小さな森へ差し掛かったとき、両サイドから一体ずつ巨人が現れ、前方後方にも現れた。
まるでここで俺を待っていたかのような周到さだ。
残りのガスや替え刃のことを考えると、今の俺一人でこの四体を相手するには多少無理がある。
が、やらなければいけない。
生きなければいけない。
仲間が繋ぎ止めてくれた俺の命を、ここで諦めて無駄にしてはいけない。
それはもう使命だった。

―――ジャラリ…

気付いたら、自分の足もとに自分がいた。
ぽっかりと空いた胸からは鎖が出ており、その鎖は倒れている自分へと繋がっていた。
それが何を意味しているのか、瞬時に理解した。

「死んだのか…」

ポツリと吐き捨てるように、そこには何の感情もでてこなかった。
あんなにも生にしがみつきここまで来たというのに、死ぬときは驚くほどあっけない。
このまま自分は自分の器が朽ち果てていくのをここで見届けるのだろうか、と思っていた矢先だった。

「それは少し違うかな」

別の存在者の声がした。
思わず振り返ると、地に縫い付けられたように倒れている巨人の上にいた。
こんな近くに巨人がいて自分の器が食べられていないことにも驚きだが、魂だけの自分を認識できる奴がいたことにも驚きだった。
見慣れない黒い布の服、腰の右側に二本、左側に一本の刀をさした男がいた。
そいつは俺を見てふわりと笑った。
巨人の頭から俺がいるところまで重力を感じさせないくらい軽々しく飛んできた。

「お前は?」
「初めまして。死神をやってる者です」
「死神…?………そうか」
「あれ?驚かないのかい?」
「驚きというか、納得だな」
「納得?」
「俺の魂を狩りに来たんだろう?この状況だ。驚きすぎてもう慣れた」

死んだと自覚し、自分を見下ろし、死神と名乗るものとはなしている。
このあと魂を狩られ地獄にいこうがどこにいこうが、もうありのままを受け入れるしかすることもない。
そんな俺の考えを死神はあっさりと覆す。

「魂を狩るもなにも、君はまだ死んでないよ?」
「は?」
「そう勘違いする人多いんだよね。まぁそれはしょうがないからいいんだけども。君は生死の境目を彷徨っているだけで、戻ろうと思えば戻れるよ?」

だからどうする?
そう聞かれている気がした。
ここでこのまま朽ち果てるか、それともぶっ倒れている器に戻ってもう一度クソみたいな世界を生きるか。


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