完全復活とまではいかないけれど、ちゃんと歩けるようになった彼女の声に呼ばれて、初めてその部屋へと足を踏み入れた。医務室、とは言い難いその場所は、いうなれば女性の一人暮らしの部屋のようだった。
「よろしく頼むよ!それと、私もワイルドくんみたいに君を名前で呼んでもいいだろうか?」
「え?あぁ、なんでもいいですよ」
「では名前くんと呼ぼう!」
「どうぞお好きに。えーっと、じゃあちょっとそこ座ってください」
具合が悪そうにそう言った彼女の指示に従いイスに座るも、すぐに何かをするというわけではなく。パソコンに向かい彼女が何かを確認している間の時間を使ってざっと周りを見渡してみた。
失礼ながらあまり綺麗な部屋とは言えないというか、昨日今日新しくできたはずなのにもう何年も使っていたかのような生活感が感じ取れる。洗面台、テレビ、ソファー、冷蔵庫、その横のラックにはコーヒーメーカーと瞬間湯沸かし器、その下には電子レンジが置いてあって。
部屋の隙間を埋めるように所々段ボールが積み重なっているその間に、無造作に置かれたビール瓶やカクテルの原液などが見え隠れしていた。未成年なのに、と思ったけれどその考えはすぐに取り消した。未成年で医者になるには無理があるだろうし、なにより初日に二日酔いで現れた彼女は誰が見ても成人した女性なのだ。日本人ということもあってか、外見的にそう見えないのがとても不思議だけれど。
「ポセイドンラインに所属し、老若男女に絶大な人気を誇るキング・オブ・ヒーローのネクストとしての能力は風を操ること。そこから派生したのかまたの名を風の魔術師という。背部に装着したジェットパックで飛行。本名はキース・グッドマン、私生活ではジョンという名前の犬を飼っていて、HERO-TVとは別に夜は空から街のパトロールを日課にしている、っと」
「!、それって…」
「あなたのことで間違いない?スカイハイ」
「すごいな!当たっている!」
「じゃあ上の服脱いでください」
「え!?」
「ん?」
「ここでかい!?」
「なにか問題でも?」
「じょ、女性の前でさらけ出してもいいのだろうか…」
「………」
「………」
きょとん、と私を見つめ返す視線に苦笑いを送ると、クスクスと笑いだして。何か変なことを言っただろうか、と考えるよりも先に、彼女の笑顔に意識がいってしまった。初めて笑っている姿を見た気がしてなんだか私のほうが嬉しくなった。とても可愛らしい!いつもこんなふうに笑っていたらいいのに!
「その心遣いは嬉しいですが、女性と捉える前にわたしは医者であなたは患者さんなんですよ?目の前の男性が上半身裸になろうと別にどうってことありませんよ」
「え、じゃあベッドの上でもかい?」
「………」
「あ!いや、その…!すまない!今のは忘れてくれ!」
「生憎、男性と寝たことがないもので…残念ながらその質問にお答えすることはできません」
「え………、え!?あの、失礼ながら年齢は…?」
「今年で25歳です」
「え?本当に?私をからかっているとかではなく?」
「からかってもわたしにメリットはありませんよ。なんなら本当にヴァージンかどうか確認してみますか?」
「なっ!?」
自分の想像を超える驚愕の事実と、確認するっていうことは…を妄想してしまい、今まで出したことがないくらいの大声で叫んでしまった。しかも女性にそんなことを言わせるなんて私は男として最低だ!とても最低だ!そして今きっとありえないほど顔が赤い私を、顔色一つ変えずに見つめてくる彼女の視線にとてもじゃないが耐えきれない!
両手で顔を覆う自分はこういう時の対処の仕方なんてわからないし、どうすればいいのかひたすら考えていたら彼女の声が聞こえて。
「ふふ、なんてね」
と柔らかく笑ったのだ。なんてね、ってことは…つまりはさっきのは嘘だってことで?
「や、やっぱり私をからかったんだな!そういう類の内容は言って良い冗談と悪い冗談がある!」
「わたしのは?」
「もちろん悪い冗談だ!私の寿命が一気に縮まった!そして驚いた!」
「まぁ…確認どうこうは嘘ですけどね」
「…ん?え?」
「じゃ、採血しますので左腕貸してください」
「え?ちょ、名前くん?どこからどこまでが嘘なんだい?」
「ちょっとチクッってしますけど我慢してくださいねー」
「あれ?この距離だから聞こえてると思うのだが…名前くん?もしもし?」
「はい、じゃあ次は血圧測るので今度は右腕を出してくださいね」
私の言葉を一切無視してテキパキと作業をこなしていく姿はまさしく正真正銘のお医者さんだった。
白衣に映える長い黒髪がとても綺麗で、それが白いベッドシーツに散らばる様を勝手に想像してしまい一人悶えたのは内緒だ!そしてすまない!
The lie of her word is searchable
ALICE+